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まっとうな「在り方」を伝えていく家つくり
株式会社大塚工務店

まっとうな「在り方」を伝えていく家つくり

2021年9月14日

ー本日ご紹介するのは、兵庫県明石市にて「大塚工務店」を経営される大塚さん。大塚工務店では地元兵庫県の木材を使い、お陽さまの力と風の力を活かしたパッシブデザイン手法の家つくりを行っている。

「家つくりを通して、正しい『あたりまえ』を伝えていきたい。」そう語る大塚さんに、家つくりにおいて大切にされていることや、現在の建築観に至ったきっかけ、そして大塚さんのストーリーについてお伺いした。

まちを守る存在になりたい。

大正13年に創業。初代は木造校舎も手掛けた

ー大塚さんは、ひいおじい様の代から家業が工務店だったとうこともあり、幼いころから建築の道を自然と志されるようになったそうだ。高校生の頃、そんな大塚さんにとって自身の生き方や在り方に影響を及ぼす大きな出来事が起こる。

大塚さん(以下大塚)今から27年前、当時僕が高校生の頃に阪神淡路大震災が発生しました。僕のふるさとは、神戸市の隣の明石市でしたので、震災の影響は大きく実家も被災。

ですが家業が建築屋でしたので、自らが被災しながらも、家族全員でお客さんのお家を修繕しに周り続けました。

高校生ながらにも兄弟や親戚のおじちゃんと一緒に必死で父親を手伝い、自分たちの家のことなんかそっちのけで切り盛りしていたんです。僕にとってこのときの記憶や光景が、家業を継ぐうえでの一つの原風景になっています。

一方で、父や祖父が建てた家はひとつとして、倒壊することはなく、市井の大工の仕事の力強さを目の当たりにしました。それだけに、大手ハウスメーカーの家が強いと言った偏った報道や風評被害には、のちに強い違和感を持ちました。

全国各地で土砂崩れや豪雨災害が起こった際に、TV番組では消防士さんや自衛隊の方々が仕事をしている姿が報道されるかと思います。その一方、当たり前すぎて報道されないのですが、実際にショベルで泥を掻き出しているのは誰なのかというと、大工さんや建築屋さん。

いつの世も、大工さん建築屋さんというのは、有事のときに街を守る存在でなければならない。その意識は僕の中で常にありますし、工務店として事業を維持・発展していくなかでも、有事に備えられる会社でありたいと思っています。

子どもたちの故郷をつくる。

ー高校生で被災した大塚さんを持ち受けていたのは、ふるさとの変貌。震災後の明石市は、大塚さんが生まれ育った街とは程遠いものになってしまった。

大塚:僕は明石市の中心地である明石駅周辺に住んでいたのですが、その地域には震災前から再開発の話が挙がっていました。震災前、そこに住んでいる人たちは再開発に反対をしていたのですが、震災後は被災疲れもあり、再開発への抵抗を止めていってしまったのです。

行政にとっては震災が追い風となり、古き良き下町の街並みがどんどんと破壊され、鉄筋コンクリートのビルやマンションで埋め尽くされました。身近にあった商店街も、道角のプラモデル屋さんも消えてしまいました。慣れ親しんだ近所のおじちゃんおばちゃんも街を出て行ってしまい、どんどん人がふるさとからいなくなってしまいました。

そのとき感じたのは「あたりまえは永遠ではない」ということ。建築学科の卒業制作も、そんなことに想いを巡らせながら作成しました。僕たちがつくる木造住宅は、建築の中でも最も小さな用途。

大きな影響力を持つことはできませんが、それでも子どもたちにとって原風景になるようなものであると思っています。建築はその人の記憶の背景になるものです。

田舎に戻ると当時の記憶がフラッシュバックしたり、商店街を歩くと「学生の頃、ここであんなことしたなぁ」と思い出したりする瞬間が皆さんにもあるかと思います。ですが建物や風景がなくなってしまうと、きっとそんな記憶も呼び起こせなくなってしまう。

だから今度は僕らが、子どもたちにとって実家や記憶の背景になるような家を、ふるさとにつくっていかなければならないと感じました。

もちろんその家というのは、外からくる起爆剤のようなものではなく、その地域にあるものをヒントにし、大切にしながら、少しだけ肉付けしたもの。それが家つくりの真っ当な在り方だと考えています。

ただしい「あたりまえ」を伝えていく。

家づくりでは、気候風土・伝統・文化・慣習など、長い時間をかけて培われてきたものを読み解きながらカタチにしていく。うちからにじみ出るようにつくっていく。それが本来の「あたりまえ」の姿だと、僕たちは思っています。

ですが現代社会の家つくりでは、この「あたりまえ」が歪められてる。僕たちのような地域の工務店と出会う前のお客さまにとっての“あたりまえ”は、特定のメーカーさんが作り出した、歪められた“あたりまえ”だったりするんです。それは偏見であり、押し付けであり、洗脳のようなもの。

売る側の理論で、自分たちの売りたい商品を正当化するために、多大な広告費をかけて作り出された虚像の“あたりまえ”。その結果、「一軒家といえば2階建てで、ベランダがあって、新建材でツルツルピカピカ!」というイメージが出来上がりました。

ですのでウチの工務店に来られたお客さまとは、ステレオタイプな “あたりまえ”を洗い直すことから始めています。

ふたつのエコを実現する。

ー大塚工務店は、地元兵庫県の木材や国産材をつかった木の家つくりを行っている。ふるさとの木を使うことは、ローカルエコノミーとエコロジーの「ふたつのエコ」の実現に繋がると大塚さんは語る。

大塚:僕たちは兵庫県民。兵庫県民が兵庫県の木を使えばふるさとが潤います。これは兵庫県に限ったことではありません。全国各地の工務店が、ふるさとの木を使う。

地元にあるものは地元の人たちが買う。それを実践できれば、日本全体でローカルエコノミーを実現することができるのではないでしょうか。そしてこのローカルエコノミーに取り組むことが、エコロジーの実現にも自ずと繋がるのです。

ご存じの通り日本には、そこらじゅうに人工林があります。その木は勝手に生えたものではなく、僕たちのおじいちゃん・ひいおじいちゃんが僕たちの代のために植えてくれた木なのです。

そんな木が有り余っているのに、大量に安く輸入できるという理由で、海外から木材を輸入しようとする。多大なエネルギーを使用した鉄骨やコンクリートを使おうとする。

その結果、手入れが必要な山が放置され続け、山の地肌がカチカチになり土砂災害や洪水を引き起こしてしまうのです。

海外の木を使わなくても、鉄筋コンクリートを使わなくても家は十分に建てることができます。であれば、近くの山の木で家を建ててあげる。そして、環境負荷を軽減する。それこそが、みんなが納得できる「あたりまえ」であり、エコの実践にも繋がります。

そして、僕たちが家つくりをしているのは、播磨と呼ばれる地域です。播磨は冬でも雨の日が少なく、一年を通して晴れの日が多いので、太陽の恩恵を受けやすい地域。

そのため大塚工務店では、自然の恵みを活かしたパッシブデザインという家つくりを取り入れています。

例えば、夏は軒(のき)や庇(ひさし)を出して、家の中に涼しい風が通るように設計し、冬は庇から太陽の光が滑り込んで、お家の中に入るよう設計してあげる。

自然を活かし設計することで、無冷房・無暖房の時間が増えます。これは先ほどのエコロジーの話にも繋がること。冷房や暖房をガンガンつけて、隣の家に室外機の温風が当たるようでは、エコではありません。

ーボランティアをするとなるとちょっと大変そうに感じてしまうが、地元の木材を使い、エコなつくりにするだけで、街つくり・環境維持に関与することができる。「ふるさとのために“ちょっといいこと”をした」と思えれば、より家に対しても愛着がわきそうだ。

地域のため・環境のために動けば、めぐりめぐって自分たちに返ってくる。

利他的に建てれば建てるほど、それは利己的でもあり、ちょっと「かっこよく」なっていく。もちろん在り方もかっこよくなっていくのですが、実は見た目もかっこよくなるんですよ。

建物を低く構えて、お隣さんにもお日さまが当たるように設計された外観は、日本人の価値観からすると「かっこいい」となる外観なのです。「情けは人のためならず」。利他的にすればするほど、在り方もデザインも良いものになります。

家つくりは各論ではなく総論。

家つくりにおいて断熱性や耐震性はもちろん大切ですが、それらの各論ばかりにこだわりすぎるのは良くありません。僕がいつもお客さんに伝えているのは「国から求められているいる性能は確実に担保しますので、暮らし方や在り方を考える時間を増やしましょう」ということ。

大塚工務店では、耐震等級を示す根拠として構造計算を必須でやっており、省エネに関しても長く※新住協で学んでいます。今までのお話だと、ファジーな家を建てていると思われがちですが、断熱気密にもしっかりとこだわっているのです。ですが、それと同じぐらい大切なのが、その先にある「暮らし方」と「在り方」。

その地域にふさわしい、まっとうな家つくりをこれからもお客さまに伝え続けていきたいと思っています。

※新住協…「新木造住宅技術研究協議会」。特定の営利団体からは独立した開かれた民間の技術開発団体。住宅の断熱・気密性能の向上を追求、技術開発を行うことで日本の住宅技術の進化をリードしてきた協会。

(2021/08/03 取材:平井玲奈 写真:家づくり百貨)