ー心がおちつく香り、吸いつくような肌触り、柔らかな表情。木には不思議な魅力がある。それは理屈で語れるようなものではなく、「感覚」からきているものが大部分ではないだろうか。そんな「なぜか心がほっとする温かみのある木の家」に住むことを、誰もが一度は憧れたことがあるだろう。
「木は人間と同じで呼吸している。生きている。歳をとっていく。だからこそ魅力的で、愛着がわくんです。」そう語るのは、大阪市で工務店を経営する居藏(いぐら)さん。居藏さんの経営する工務店「藏家」では、国産材を使った家づくりに特化。自然の素材を生かし、住むほどに味がでる「生きた家」づくりをしている。
今回はそんな居藏さんに、木の家づくりに対する想い、木に魅せられたきっかけ、家づくりで大切にしていることについてお伺いした。
目次
「絶対にここで働きたい」国産材に特化した工務店との出会い。
「木の家」に強いこだわりを持つ居藏さん。居藏さんが「木」に魅せられたきっかけは、いったいどんなものだったのだろうか。
居藏さん(以下居藏):僕は建築の大学卒業後、最初に入った会社で営業や設計の仕事をしていました。その後「現場のことをもっと学びたい」と思い、大工の職業訓練校に進学。卒業した後、分譲地に売建物件を建てる工務店に勤めました。
その工務店は、国産材の木を使わない、通常の既製品を使った工務店だったのですが、物件を何十件も建てていくうちに「自分の向いている方向は果たしてこれであっているのか」と、不安を覚えたんです。
ーお客様目線ではなく、会社都合で効率よくつくられていく家、会社のノルマ達成のために売られていく家を見る中で、モヤモヤした気持ちを抱えていた居藏さん。そんな居藏さんに一つのターニングポイントが訪れた。
居藏:ある日、一人の大工さんから「国産の木を使って家をつくってみないか」と提案があり、吉野の山に木を見に行ったんです。そのときに「木って面白いな」「なんだかいいな」と直感的に感じました。それが一番はじめに、木に魅せられたきっかけです。
私も含め多くの人は、木に触れたり木の家に入ったりすると「なんとなく落ち着く」「ほんのり温かみを感じる」「なんだか惹かれる」といった感覚を覚えるだろう。その感覚は明確には言葉で言い表せない。それは居藏さんも同じだったようだ。
そこから2社目に勤務した工務店を辞め、国産材を使った工務店に勤めることになりました。28歳のときです。初めて面接でその会社に訪れ、事務所の中に入った瞬間に「給料なんかどうでもいいから絶対に働きたい!」と強く直感的に感じたんです。木でできた空間の居心地のよさ、ぬくもり、匂い、それらにとても惹かれました。なんだか感覚的なものばかりですね(笑)
自分自身が働きたいと思える空間で仕事ができれば、お客さんも僕たちの仕事に共感してくれる、こんな木の家に住みたいと感じてくれるのではないかと感じました。
人と一緒に歳をとっていく、味がでてくる。それが木の魅力。
居藏:僕が木に惹かれた理由が直感的、感覚的なものだったように、木の魅力って言葉で伝えるのはとても難しいんです。お客さんには実際に見て、感じていただかないと分からない部分がたくさんあります。なので藏家に来て、木の家に興味を持っていただいたお客さんには、僕の自宅兼展示ハウスを実際に見てもらうようにしているんです。
ーもちろん「木の家」にはメリットだけでなく、デメリットもある。例えば傷つきやすい、凹みやすい、反ってくる、などだ。家を建ててもらう側としては、そのようなデメリットとどう付き合っていくか、向き合っていくかが気になるところだ。その点についても居藏さんは次のように語る。
家を建てるお客さんには、木の家の良いところだけでなく、悪いところも知ってほしいと思っています。木は色も形も変わってくるし、反って隙間もできてくる。そこも含めて共感してもらいたい。
「木も人間と同じで生き物。呼吸している。生きている。成長もするし歳もとっていく。」それを観て·感じて·好きになってほしいんです。そして木を好きになってくれたお客様と一緒に家づくりをしていきたいと思っています。
ー居藏さんの話を聞き、木の家は「まるでお気に入りの革の財布が、時とともに風合いが変わり、味も出てきて愛着がわいてくるのと似ている」と感じた。
居藏:そうそう、まさにそんな感じだと思いますよ。住む人も、木の家とともに一緒に成長し年をとっていくんです。年季が入ったほうが深みも出てくるし、かっこよくなる。大人の男性も年齢を重ねたほうが、味が出てきてイケオヤジになる、というのにも似ていますね(笑)
フローリングで例えると、「既製品(合板)のフローリングも、無垢のフローリングも最初は100点」。だけれども既製品のフローリングは傷が付いて凹むと合板が見えてくる。
傷が付くたびに見た目が悪くなってくる···いわば減点方式なんです。無垢であれば傷ついても凹んでも、どこまでいっても木。それが味になっていきます。5年10年経つと、1年目にはない味が出てきて、それに伴って愛着も湧いてきます。そんなふうに、無垢のフローリングは加点方式。お客様にとって5年後の家は120点になっているかもしれないし、10年後にはもっと価値が上がっているかもしれません。
お客さんとはいい意味で対等な関係でいたい。友達のような。
ー人との出会いを大切にしているという居藏さん。家づくりへの想いを語る際にも、居藏さんのそんな人柄がうかがえた。
居藏:僕は、一緒になって家づくりを楽しんでくれる人と、仕事をしたいと思っています。だから「お客様」というよりは、対等な「友達」のような関係でいたいんです。2021年現在は、新型コロナウイルスの影響でなかなか機会がありませんが、以前は施工が決まったお客さんに「飲みに行きませんか?」ってしょっちゅう誘ってましたね(笑)やっぱり人って、飲みの席で素が出るし、本音も出る。そういう機会を大切にしています。
お客さんは、僕たちのつくる家を好きになってくれたからこそ、お金を払いたいと思う。そして僕たちはお客さんの想いに応えて家をつくり、その対価としてお金をいただきます。そこに上下関係はないと思うんです。お客さんとはいい意味で対等、友達のような関係で楽しみながら家をつくっていきたいですね。
ー実際に家をつくる人の人柄を知れる、一緒に楽しみながら家をつくっていけるというのは、居藏さんの会社のような、地域密着型の工務店ならではの魅力ではないだろうか。
「終わるのがさみしい」そういわれたときに喜びを感じる。
居藏:お客さんと一緒に、楽しく家づくりをしていくことをモットーにしているので、「工事が終わるのさみしいなぁ。まだ工事してくれてもいいよ!(笑)」なんて言ってもらえるときに喜びを感じますね。
「工事が終わってしまうのがさみしい」この言葉の意味が若いころはよく分からなかったんです。昔勤めていた工務店の社長に「お前の幸せってなんや?」と聞かれたことがあって、僕は「家族がいて、子供がいて、人生が楽しいこと」って答えたんです。そしたら「そんなん当たり前や」って言われてしまって(笑)
その社長は結局答えを教えてくれませんでした。でも今、お客さんと楽しく家をつくっていく中で「工事が終わってしまうのがさみしい」「もう終わりですか!?」と言われると、この人と一緒に家をつくってきてよかったな、楽しんでもらえてよかったな、と幸せを感じます。今思うと、あの時の社長の投げかけに対する答えは、これだったんじゃないかなって思いますね。
ー居藏さんは、お客様が施工の様子も楽しんでもらえるようにと、Facebookにお客さまごとのグループを作り、そこに施工経過などを定期的にアップしていると言う。施工後の家に伺った際にも、床などの写真を撮り「5年目の床」と掲載するそうだ。そんなエピソードからも、居藏さんの人の繋がりを大切にする姿勢や、木が大好きな気持ちが伝わってきた。
家は「売る人」ではなく「つくる人」を見てほしい。
家を建てるときには、その会社の営業マンを見るのではなく、実際に家を「つくる人」を見てほしいと僕は思っています。大きな会社であればあるほど、家を売る人とつくる人が明確に分けられていて、実際に家を買う人は、「つくる人」の想いが分からないんです。
お客さんと、家を建てる会社の相性はとても大切。小さな会社であれば、その会社の社長と話してみて、「この人たちと楽しく家をつくれそうか」を確かめてみてください。大きな会社よりも、僕らのような地域の工務店だからこそできることってたくさんありますよ。
(2021/6 /1 取材:平井玲奈 ポートレート写真:家づくり百貨)