注文住宅を建てるとき、外観デザインは「自分の好み」だけで決めていないだろうか。屋根の形ひとつ、外壁素材ひとつが、周囲の街並みから家を「浮かせる」原因になる。今回の家百講座には、滋賀・関西エリアで活躍する4人のつくり手が集まり、「地域の景観に調和する外観設計」をテーマに本音で語り合った。
- 屋根の形状が街並みへの馴染み方を最も左右する
- 「悪目立ちしない」を意識した素材・色選びが基本
- 板張り・自然素材はエイジングで街並みに溶け込む
- 外観は個人のものではなく地域のものという発想の転換
- 緑・植栽が周囲に波及し、街並みを自ら育てる可能性
目次
1. 街並みとの調和とは何か:外観デザインの基本的な考え方

1-1. 「悪目立ちしない」ことが出発点
動画のテーマ設定は「周りの風景を崩さない、地域に馴染む外観のデザインとディテール」だ。4人のつくり手が最初に口を揃えたのは、悪目立ちしないことの重要性だった。小縣さんは「下手に目立とうとすると、やっぱり逆におかしくなる。浮くのはよろしくない」と率直に語っている。
調和とは「目立つな」という消極的な話ではなく、「その土地に積み重なってきた景色の文脈を読む」という積極的な姿勢だ。動画の中では、農家住宅が並ぶ地域に急勾配の片流れ屋根を2棟並べると確実に浮く、という具体例が挙げられている。
1-2. 「外観は地域のもの」という考え方
夏見さんは動画の中で印象的な言葉を使っている。
「外観は地域のもの、外観は個人のものっていうことよく言うんですよ。昔その頑張って地域の大工さんや名士の方が街並みとして残してたものをやっぱり同じように街並みとするべきやと思っていて」
この発想は、注文住宅における外観デザインの議論でしばしば抜け落ちる視点だ。施主は「自分の家」をつくるが、その外観は毎日通行人の目に触れる「街の一部」でもある。つくり手たちはそこに強い責任を感じていた。
2. 街並みに調和する外観設計の核心:屋根形状と素材

2-1. 屋根形状が「最も主張の強い要素」
4人全員がフリップに書いた内容の筆頭として、屋根が浮かび上がった。小縣さんは「屋根の形は、形として最も主張が強い部分。お金もそれほど大きく変わるわけではないので、地域に馴染むことを考えると屋根の形を一番大事にするといい」と語っている。
たとえば、勾配の急な片流れ屋根は現代的でスタイリッシュだが、周囲が緩勾配の切妻屋根ばかりの農村エリアに建てると、それだけで風景から浮き上がってしまう。逆に言えば、屋根形状をその地域に合わせるだけで、外壁素材のハードルはかなり下がる。
2-2. 素材は「エイジングで馴染む」ものを選ぶ
竹内さんは素材の選び方について、こう語っている。
「日本の気候風土に馴染むような昔からある素材、経年劣化じゃなくてエイジングがかかったなって思われるようなものを自分たちだけでも日本という文化に寄り添って建てた方がよろしいんじゃないか」
窯業系サイディングを否定しているわけではないが、竹内さんが推すのは板張り・自然素材系の外壁材だ。時間が経つほど街並みに溶け込んでいく素材こそが、長期的な調和を生むと考えている。フェンスも板張りにすることで、外壁との一体感が生まれるという。
3. 地域性を読む:滋賀県の「弁柄・板張り文化」という実例

3-1. 土地固有のデザインコードを継承する
夏見さんが拠点とする滋賀県には、弁柄(べんがら)塗りと板張りという固有の外観文化が色濃く残っている。鉄錆を成分とする赤茶色の顔料を柱や梁に塗り、板を合わせるスタイルで、街道筋の古民家に多く見られる。
夏見さんはこれを「僕らの地域のデザインの根本」と表現し、なんとかして残したいと考えている。ただし、現代では弁柄塗りの家が減り、サイディングの家が増えた地区も多い。そのような場所に弁柄を使うと「逆に悪目立ちする」という矛盾も生じるため、玄関ドアなどのポイント使いに留めたり、黒い外壁と板張りを組み合わせたりと、柔軟に使い分けているという。
3-2. 景観条例が「やりやすさ」を生む
滋賀県の一部エリアには景観形成条例があり、色彩のカラーコードや素材に関する規制が存在する。夏見さんは「場所によっては板張りでないとダメというところもある。そういう意味ではやりやすい」と語っている。つくり手にとって条例は制約である一方、街並みの質を維持するための後ろ盾にもなっている。
パリの例も動画で語られた。飯田さんがパリで内装工事を行った際、店舗のファサードの色・看板の書体・テントの色と素材をすべて提出して審査を受けたというエピソードだ。許可取得に1年かかったというが、そのルールの存在がパリという街の美しさを支えている——動画ではそういった共感が4人の間で広がった。
4. 無秩序な街に建てるとき:「強調性」という考え方

4-1. 調和できない街には「自分がルールを作る」
飯田さんが動画で提示したのが「強調性」という概念だ。「持たせるところは持たせるけど、持たせないところは持たせない」という意味合いで、いわゆる建売住宅が無秩序に並ぶような街区では、既存の街並みへの調和を目指すこと自体が難しい。
そのような場合、飯田さんは「こっちが強調性を作ったろ」という発想に切り替えるという。既存の街並みに迎合するのではなく、質の高い外観と植栽で一棟が映え始めることで、周囲の家々が自発的に変わっていくことを期待する。
4-2. 緑が街を変えた実話
動画の締めくくり近くで、飯田さんが語ったエピソードが印象的だった。
「一軒映えた家ができるんですよ。そうすると『あ、緑って素敵なんだ』で、緑を増やしてくれるんですよ、周りが。それまで木がない街並みだったのに、なんか木増えたな、みたいな。そうするとその地域の人たちがその家の前を散歩するようになり、コミュニケーションが生まれて……木が周りのお宅に増えていったっていうエピソードがある」
無秩序な街でも、一棟の丁寧な外構・植栽が起点となり、街並みが育っていく可能性がある。「ルールは俺が作る」と笑いながら語っていたが、その根底にある思想は「街の景観に責任を持つ」という設計者としての覚悟だ。
5. 外観と街並み調和を実現するための実践ポイント

5-1. 屋根形状は周辺の家を観察してから決める
建設予定地の周囲を実際に歩き、多数派の屋根形状・勾配・素材を確認することが第一歩だ。小縣さんが指摘するように、屋根形状は設計コストに大きく影響しない割に、景観への影響が大きい。
5-2. 外壁素材は「10年後・20年後の姿」で選ぶ
竹内さんの言葉を借りれば、「経年劣化」ではなく「エイジング」を念頭に置くことが重要だ。板張りや左官仕上げなどの自然素材系は、新築時より時間が経つほど周囲の古い建物と馴染んでいく。一方、安価なサイディングは色褪せや汚れが目立ちやすく、街並みから浮いてしまうケースもある。
5-3. 植栽・緑は「調和の切り札」
竹内さんが「緑は統一感を生む」と語ったように、植栽は異なる素材や色調の建物をつなぐ共通言語として機能する。隣が武道場であれ中学校であれ、緑があれば視覚的なつながりが生まれる。飯田さんのエピソードも、緑が持つ街への波及力を示していた。
6. よくある質問

Q. 農家住宅が多い地域に現代的なデザインの家を建てたい。どこまで調和を意識すればいい?
小縣さんは「屋根の形だけでも地域に合わせれば、素材や色は好みに合わせる余地がある」と語っています。勾配の緩い切妻屋根や寄棟屋根を採用するだけで、周囲との違和感は大幅に軽減されます。急勾配の片流れ屋根は農家住宅の並ぶ地域では特に浮きやすいため注意が必要です。
Q. 建売住宅が並ぶ無秩序な街区では、調和を目指しても意味がないのか?
飯田さんは「そういう場所では自分がルールを作る発想に切り替える」と話しています。周囲に迎合するのではなく、質の高い外観と植栽で一棟が映え始めると、周りの家々も緑を増やすなど影響を受けるケースが実際にあったといいます。
Q. 弁柄や板張りなど地域固有の素材を使いたいが、その素材の家が周囲に少なくなった場合はどうすべきか?
夏見さんは「地域の街道筋には残っているが、サイディングの家が増えたエリアでは弁柄が逆に悪目立ちすることもある」と正直に認めています。その場合は全面に使わず、玄関ドアや要所のポイント使いにとどめたり、黒い外壁と板張りを組み合わせるなど、現状の街並みと折り合いをつけた使い方を推奨しています。
Q. 景観条例がある地域と、ない地域では家づくりのアプローチが変わるか?
夏見さんは「色彩や素材の条例があると制約に見えるが、むしろやりやすい面もある」と話しています。つくり手として地域の素材を使いたいと思っていても、施主の理解を得るのに時間がかかるケースがある一方、条例があれば「ルールだから」と共通の前提にできるからです。
Q. 外観は施主の好みで決めるものではないのか?
夏見さんは「外観は個人のものでもあるが、地域のものでもある」という考え方を紹介しています。道路に面した外観は、毎日そこを通る人々の目に触れるものです。公務店や設計者の中には、その点を真剣に考えている人たちがいる——それを知った上で家づくりを進めてほしいというのが、動画全体のメッセージでした。
街並みに調和する外観設計は、施主とつくり手が一緒に考えるべきテーマです。4人のつくり手が語った「屋根形状・自然素材・植栽・地域の文脈」というキーワードを手がかりに、外観デザインを見直してみてください。より詳しく知りたい方はぜひ動画をご覧ください。
この講義の出演者
家づくり百貨には、プロのつくり手同士が「本当に信用できる」と数珠つなぎで紹介し合った全国68社の工務店・設計事務所が参加しています。記事で学んだことを、信頼できるつくり手との出会いにつなげてください。
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