軒下でぼんやりと雨音を聞く。ウッドデッキに腰かけて庭の緑を眺める。神社の縁側で一人静かに時間を過ごす——そんな何気ない場面に、家づくりのヒントが詰まっています。この講義では、「中間領域」というキーワードを軸に、住まいの間取り設計に豊かさをもたらす空間づくりについて、現役のつくり手たちが本音で語り合いました。
- 中間領域とは「内と外のあいだ」にある温度・光・雨のグラデーション空間
- 軒・屋根の有無がウッドデッキの使われ方を大きく左右する
- 中間領域は「作ろう」より「必然から生まれた」ほうが豊かになりやすい
- 神社の縁側に宿る静けさこそ、人が中間領域に求めているもの
- 庭・窓・中間領域・室内をグラデーションでつなぐ間取り設計が住まいを豊かにする
目次
1. 中間領域とは何か?内と外の「あいだ」を理解する

1-1. シンプルな定義:家の中でも外でもない場所
飯田さんはこの講義の冒頭で、中間領域を「家の中とお庭の間」とひと言で定義しています。断熱材に囲まれた室内を「内」、完全に外気にさらされた庭を「外」としたとき、その中間にある温度・光・雨の当たり方がグラデーション状になった空間——それが中間領域です。
夏見さんは断熱の視点からこう補足しています。室内が20℃なら外は0℃や10℃。屋根はかかっているが壁はない、断熱材はないが雨は防げる——そういう場所が、温度的にも環境的にも「ちょうど中間」にあたるというイメージです。
1-2. 代表的な中間領域の形
軒下・縁側・ウッドデッキ・テラスなどが代表例です。動画では「昔でいう広縁が一番わかりやすい」という声もあり、社寺建築の縁側を引き合いに出しながら、格子戸や建具がすべて外されて内外が一体化した空間の気持ちよさが語られています。
2. 日本建築における中間領域の歴史と縁側の役割

2-1. 日本の気候が生んだ必然の空間
動画では、日本の中間領域が「意図して作られたというより、気候への対応から自然に生まれた」という見方が共有されています。
「それを作るために張り出したんじゃなくて、張り出した結果そのいい空間が生まれたっていう、そっちの順番な気がしてる。」 ——つくり手の言葉より
飯田さんが自宅の北側の洗濯物干し場を例に挙げながら語っていたのはまさにこの感覚です。「雨を避けたいから屋根をかけた。そうしたら結果的に、どんな天気でも外に出られる中間領域が生まれていた」——そういうエピソードでした。雨の多い日本において、軒を伸ばし屋根をかける行為が、自然と豊かな中間空間を育ててきた歴史があります。
2-2. 京都・奈良・神社に残る記憶
動画でつくり手の一人が語っていたのは、「なぜみんな京都に行くのか」という問いです。京都や奈良の社寺に足を運ぶと、深い軒・縁側・石畳といった中間領域が随所にあります。そこでは「何となく落ち着く」「ぼんやりしたくなる」という体験が自然と生まれます。
「みんな京都行ってさ、京都行こうってなるわけじゃんね。そういう感覚がDNAに刷り込まれてると思う。」 ——つくり手の言葉より
この感覚は外国人にも共通すると動画では話されており、文化を超えて「静けさのある中間的な空間」への親和性が人間にはあると語られています。
3. 中間領域が住まいに生み出すもの

3-1. 雨の日でも使えるかどうかは「屋根があるか」で決まる
大木さんは「ただのウッドデッキだけだと利用頻度がすごく落ちる」と指摘しています。作ったはいいものの何に使うかわからない、雨が降れば出られない——そういう理由でウッドデッキが放置されてしまうケースは現場に多いといいます。
「屋根をつけるだけで大きく変わる。濡れないっていう、それだけで。」 ——大木さんの言葉より
軒がウッドデッキの手前まで伸び、雨の日でもデッキが濡れない設計にすることで、「雨音を聞きながらぼんやりする場所」「風を感じながら過ごす場所」として日常的に使える空間になると、つくり手たちは語っています。
3-2. 外を「楽しむ」空間から「受け取る」空間へ
単に外に出られるだけでなく、雨・風・光・匂いを安全に受け取れる場所として中間領域は機能します。飯田さんが語っていた北側の軒下空間では、「光量が安定していて使いやすい」「隣の桜が見えて心地よい」という副産物も生まれていました。庭との視覚的なつながりが生活に季節感をもたらし、日常の豊かさに直結します。
3-3. 「ぼんやりする時間」を取り戻す場所
動画では、神社の縁側に一人座ると心が洗われるような感覚になるという話が出ています。情報が絶え間なく流れ込んでくる毎日の中で、縁側やウッドデッキのような中間領域に身を置くと、自然と「何もしない時間」が生まれます。つくり手の一人はこれを「静けさという空間が中間領域にはある」と表現しました。スマートフォンを置いてただそこに座る——そういう時間を住まいの中に用意できるかどうかが、暮らしの質に影響してくるという話です。
4. 間取り設計で使える中間領域のデザイン手法

4-1. 軒を深く出してウッドデッキを囲う
最もシンプルで効果的な手法が、軒をウッドデッキの先端まで延ばす設計です。デッキが雨に濡れなければ、天気に左右されず外気を楽しめる場になります。動画では「軒よりウッドデッキが内側に収まっている」という表現が使われており、軒の出を意識的に深く取ることの重要性が語られています。
4-2. 必然から中間領域を生む設計思考
夏見さんは「中間領域を作ろうと意図するより、地域の気候や生活の必要から導いたほうが豊かになりやすい」という考えを語っています。浜松のような暑い地域では日射を遮るための屋根が先にある。その屋根の下に自然と人が集まり、結果として中間領域が育つ。「必然性から生まれた空間」は、使われ方も自然と定まっていくというわけです。
4-3. 庭・中間・室内をグラデーションでつなぐ
吉田さんが語っていたのは、中間領域を単体で考えるのではなく、庭→中間→窓→室内という一連のグラデーション設計として捉える視点です。庭の広がり・見る角度・周囲からの視線・風の向き・植栽の高さといった要素を整えた上で大きな窓を設け、その内側に最も居心地のよい場所(リビング・ダイニング)を置く。この流れが揃うことで、家族が自然に集まる場所が生まれると語っています。
4-4. 緑とセットで考える
動画では「中間領域と庭はセットで設計したほうがいい」という意見が複数のつくり手から出ています。緑・風・光・匂いが揃ってこそ中間領域は豊かになり、外に植栽があることで視線も抜け、空間に奥行きが生まれます。
5. 中間領域を活かした具体的な間取りタイプと事例

5-1. 北側軒下タイプ(実例:飯田さん宅)
飯田さんが自宅を例に語ったのが、北側に軒下の洗濯物干し場を設けたケースです。台所からすぐ出られる動線上にあり、北側特有の安定した光量で使い勝手もよく、隣に桜が見える偶然も重なって「結果的に家の中で一番好きな場所」になったといいます。「意図していなかったけれど豊かになった」という、中間領域の本質をよく表した実例です。
5-2. リビング延長型ウッドデッキ+深軒タイプ
リビングと庭をつなぐウッドデッキに深い軒をかけ、雨の日でもデッキに出られる設計。動画では「雨の様子を眺めながらウッドデッキに座る」「外好きな人なら机を置いて休日を過ごす場所になる」という使い方が語られています。
5-3. 庭の景色を「どう切り取るか」を設計する
吉田さんは「庭の広がりをパノラマに見せるのか、あえて絞り込んでぎゅっと見せるのか、地面に高低差(起伏)をつけるのか」という視点を紹介しています。中間領域から見える景色そのものを設計することが、空間の豊かさを大きく左右するという考え方です。
6. 心地よい中間領域をつくるための設計ポイント

6-1. 視線・風・匂いを総合的に整える
吉田さんは、中間領域の心地よさを決める要素として「周囲からの視線」「風の向き」「匂い」「光」を挙げています。これらをバラバラに考えるのではなく、庭全体を設計する段階から一緒に考えながら窓の位置・大きさを決めることが重要だといいます。
6-2. 「気づいたら外にいた」という感覚を目指す
複数のつくり手が共感していたのは「グラデーション」という言葉です。内と外の境界がくっきりしていると空間は分断されますが、軒・中間領域・庭が連続することで「いつの間にか外にいた」という感覚が生まれます。このシームレスな連続性が、住まいを街並みとしても豊かに見せることにつながると語られています。
6-3. 地域性と住む人の生活スタイルを前提にする
動画では「暑い地域ではそういう使い方がしやすい」「外が好きじゃない人もいるから、絶対に必要なわけではない」という現実的な意見も出ています。中間領域は万人に必要なものではなく、その地域の気候・住む人の暮らし方に合わせて取り入れるかどうかを判断する視点が大切です。
7. 設計者選びと「体験」の重要性

動画の締めくくりでつくり手の一人は、「中間領域を意識して設計する人と、そうでない人がいる。その差は経験値であり、その空間を実際に体験したことがあるかどうかだ」と語っています。
「なぜみんな京都に行くのか」という問いに戻ると、社寺の縁側・深い軒・石畳といった中間領域の体験が、人の感性を動かし、家づくりに対する視点を変えます。家づくりを検討する過程で京都や奈良に足を運び、中間領域の心地よさを自分の体で感じてみることは、間取り設計を依頼する前の有効な準備になると動画では語られています。
また、設計者を選ぶ際には「その人自身が中間領域を体験し、大切にしているかどうか」を見極める目線も重要です。
8. 中間領域の設計でよく出る疑問

Q. 中間領域とは具体的にどんな場所のことですか?
飯田さんが語っているように、「家の中とお庭の間」にある空間のことです。室内のように完全に囲まれているわけでもなく、庭のように外気にさらされているわけでもない——屋根はあるが壁はない、断熱はないが雨は防げるといった、温度・光・天候の点でグラデーション状になっている場所を指します。軒下・縁側・ウッドデッキ・テラスなどが代表例です。
Q. ウッドデッキの利用頻度が上がる工夫はありますか?
大木さんが明確に語っています。ウッドデッキ単体では使われなくなりやすく、最も効果的な工夫は「屋根(軒)をかけること」です。雨に濡れない・夏の直射日光を遮るというだけで、日々の使われ方が大きく変わります。軒の出をデッキの先端まで伸ばし、雨の日でもデッキが濡れない設計にすることが理想として語られています。
Q. 中間領域は意識して設計するべきですか?それとも必然から生まれるものですか?
つくり手によって少しニュアンスが異なります。夏見さんは「作ろうとして作るより、地域の気候・雨への対応といった必然から生まれた空間のほうが豊かになりやすい」という考えを語っています。一方で吉田さんは「豊かな中間を作りたいがために意識して設計している」とも語っており、アプローチは違っても結果的に目指す豊かさは同じだという結論になっています。
Q. 神社の縁側が心地よいのはなぜですか?
「静けさという空間が中間領域にはある」というつくり手の言葉が印象的に語られています。情報過多な日常から離れ、雨音や自然の気配だけが届く縁側に座ると、自然と「ぼんやりする時間」が生まれます。この感覚は外国人にも共通するといい、文化を超えた人間の本能的な心地よさとして語られています。
Q. 中間領域と庭の関係はどう考えればよいですか?
吉田さんが詳しく語っています。中間領域と庭はセットで設計することが重要で、庭の広がり・植栽の高さ・周囲からの視線・風の向き・匂いを総合的に考えながら、庭→中間領域→窓→室内というグラデーションを作ることが理想です。この連続性が「気づいたら外にいた」という空間体験につながり、住まい全体の豊かさを底上げします。
中間領域は「作らなければいけないもの」ではなく、暮らしの質を高めるために検討したい選択肢です。軒の出・屋根の有無・庭との連続性——ひとつひとつは小さな設計判断ですが、その積み重ねが、日々の暮らしの中に「ぼんやりできる場所」を育てます。より詳しく知りたい方はぜひ動画をご覧ください。
この講義の出演者
家づくり百貨には、プロのつくり手同士が「本当に信用できる」と数珠つなぎで紹介し合った全国68社の工務店・設計事務所が参加しています。記事で学んだことを、信頼できるつくり手との出会いにつなげてください。
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