都市部で木の家を建てようとするとき、多くの人が「できるだけ広く住みたい」と考えます。ところが現実には、土地代・建築費・職人単価のすべてが高騰するなかで、広さを追い求めることが最大のリスクになりかねません。この講義では、福岡・神奈川・大阪・兵庫という4つの都市圏で家づくりを手がけるつくり手たちが、「最初に諦めるべきもの」について本音で語り合います。
- 都市部で最初に諦めるべきは建物の面積(坪数)
- 4人家族の現実的な最適解は24〜26坪の2階建て
- 坪単価×坪数で削れる金額は大きく、性能を落とすより面積を削るべき
- 土地は「売りに出ているものから選ぶ」という幻想の捨て方
- 利便性より建物品質にお金をかけるという発想の転換
目次
1. 都市部の狭小注文住宅が置かれた現実

1-1. 「広さ」への欲求と現実のギャップ
家づくりを始めたばかりの頃、できるだけ広い家を建てたいと思うのは自然な感覚です。しかし都市部では、土地代・建築費・職人単価が同時に重くのしかかり、広さと質を両立させるのが難しい。
この講義で竹内さん(福岡)・大沢さん(神奈川)・北川さん(大阪)・清水さん(兵庫)の4名に「お客さんが最初に諦めるべきものは何か」と問いかけたところ、答えはほぼ一致しました。
1-2. 4人のつくり手が出した共通解
フリップに書かれた答えは「建物の面積(サイズ)」と「土地の利便性」の2種類です。竹内さんと大沢さんは前者、北川さんと清水さんは後者を選びましたが、実はこの2つは表裏一体の関係にあります。都市部では土地にも建物にも十分な予算を振り向けることが難しく、どちらかに優先順位をつけざるを得ない——それが4人の共通認識でした。
2. 建物の面積を削ることが最優先の理由

2-1. 坪単価×坪数で削れる費用は大きい
竹内さんは、建物面積を削る合理性をこう説明しています。
「1坪減らせば坪単価100万円だったら100万円減りますので、それをされた方がいいですね。性能とか耐震性とかを落としても意味ないんで。」
坪単価100万円の地域では1坪削るだけで100万円の削減になります。性能や耐震性を妥協するより、はるかに効果的で、家の安全性も損ないません。
2-2. 土地は消えないが、建物はコントロールできる
竹内さんが強調するのは「土地は消えないが、建物は自分でコントロールできる」という視点です。土地の価値は市場に左右されますが、建物の規模は設計段階で決められる数少ない変数です。コントロールできるものを先に絞る——その発想が、都市部での家づくりの出発点になります。
2-3. 「濃厚なビスクスープ」という考え方
大沢さんは横浜・神奈川エリアでの経験から、こんな言葉でこの考えを表現しています。
「大量の味の薄まったスープを飲むよりも、濃厚なビスクスープの方がいいんじゃないかという話です。ボリュームを絞って、その分良いものができるんじゃないかというご提案をするようにしています。」
広い家を求めて予算を薄く広く使うより、コンパクトな面積に集中して品質を高める。この発想が、都市部の狭小注文住宅における本質的な設計思想です。
3. 4人家族の現実的な最適解:24〜26坪

3-1. 竹内さんが提示する「今の標準」
竹内さんによると、創業当初のモデルハウスは28坪で、当時でも「コンパクト」と感じられる規模でした。それが今では提案の中心が26坪、さらに24坪へと縮んでいます。「4人家族の2階建てなら24〜26坪が今のベスト」というのが、竹内さんの率直な見立てです。
3-2. ロフトで空間量をコントロールする
24〜26坪の2階建てにロフトを加えることで、坪数以上の空間量を確保できます。ただし3階建てにすると階段面積が増え、かえって居住効率が下がるケースもあります。ロフトの採否は、実際の生活動線をイメージしながら慎重に判断することが推奨されています。
4. 都市部の坪単価リアルデータ

4-1. 福岡(竹内さんのエリア)
福岡市内で駅徒歩圏内の土地は坪単価100万円前後、利便性の高い立地では200万円程度になることもあります。バスや車通勤を許容すれば45万円以下の土地も存在しますが、それでも「安くはない」水準です。天神ビッグバンと呼ばれる大規模再開発が続く福岡には九州各地から人口が集まり続けており、土地の値上がりは近年も止まっていないと竹内さんは語っています。
4-2. 神奈川(大沢さんのエリア)
横浜・川崎エリアは職人単価が全国最高水準にあり、木材の運搬コストも高い。土地代は坪60〜70万円が最低ラインになる地域が多く、坂地では擁壁や地下室の工事費がさらに上乗せされます。こうした条件が積み重なり、「建物にかけられるお金が限られがち」な状況が生まれています。
4-3. 大阪・北摂エリア(北川さんのエリア)
大阪でも土地代はなかなか下がりません。駅から離れても別の駅圏内に入ってしまうという地形的な構造もあり、利便性をきっぱり手放しにくい面があります。さらに車2台分の駐車スペースへのニーズが根強く、それが土地選びをいっそう複雑にしています。
5. 土地に関する「幻想」を捨てること

5-1. 清水さんの直言
清水さんは、土地探しで多くの人が陥りがちな思い込みについて率直に語っています。
「自分だけ得しようとしても得はないですから。土地っていうのはあるものから選ぶ、売っているものから選ぶしかないんですよね。」
不動産のプロは10億円の土地でも30秒でGoogleマップを見て判断すると清水さんは言います。その専門家たちと同じ土俵で「掘り出し物」を探そうとすること自体、現実的ではありません。
5-2. 「売りに出ているものから選ぶ」という前提
どれほど予算があっても、売り出されていない土地は買えません。「いつか掘り出し物が出るはずだ」という期待を手放すことが、都市部での土地探しの第一歩です。利便性へのこだわりを少し緩め、駅から離れるかエリアを広げるだけで、建物品質に回せる予算が生まれます。
5-3. 利便性を緩めると何が得られるか
北川さんは「土地が高いということは、それだけ利便性が良いということ」と述べた上で、利便性を少し手放すことで建物品質に予算を集中できると語っています。自転車で駅まで行ける距離であれば、実生活上の不便さは思いのほか小さい。住み心地の本質は家の質にある、というのが北川さんの考え方です。
6. 面積を削っても豊かに暮らすための考え方

6-1. コンパクトさと豊かさは両立する
大沢さんが「濃厚なビスクスープ」と表現したように、面積を削ることは豊かさを削ることではありません。24〜26坪という限られた面積でも、断熱・耐震・素材の質を高め、間取りを工夫することで、広い家より居心地の良い空間はつくれる——そのことをつくり手たちは実体験として知っています。
吹き抜けや高天井、視線が抜ける窓の配置といった手法は、小さな家を広く感じさせる代表的な設計の工夫です。
6-2. 性能を落とす節約は意味がない
竹内さんが繰り返し強調するのは、「坪数を削るのは有効な節約だが、耐震性や断熱性能を落とすことは意味がない」という点です。性能を削ると、住み始めてからの快適性・安全性・光熱費のすべてに影響します。削るべきは面積であり、品質ではない——これが都市部の狭小注文住宅における基本原則です。
7. よくある質問

Q. 都市部で4人家族が暮らすのに、24坪では狭すぎませんか?
竹内さんによると、かつては28坪でも「コンパクト」と感じられた時代がありましたが、現在では24〜26坪で4人家族が快適に暮らせる設計が十分に実現できるといいます。ロフトの活用や間取りの工夫次第で、坪数以上の豊かさを感じられる家になります。
Q. 坪単価が高いエリアでは、面積を削るのが最も効果的な節約なのですか?
竹内さんは「坪単価100万円なら1坪削れば100万円減る。性能や耐震性を落とすより、まず面積で調整する方が合理的」と断言しています。建物の面積は自分でコントロールできる数少ない変数なので、まずここから検討するのがプロの提案です。
Q. 土地の「掘り出し物」を粘り強く探すのは有効ですか?
清水さんは「不動産のプロは10億円の土地でも30秒で判断する」と語り、一般の人が同じ土俵で掘り出し物を探すことの難しさを率直に指摘しています。土地は「売りに出ているものから選ぶ」という前提を受け入れることが、現実的な出発点です。
Q. 利便性の高い場所にどうしてもこだわりたい場合はどうすればいいですか?
北川さんは「利便性にこだわるなら、建物の規模を小さくして建物品質にお金をかける」という方向を提案しています。高い土地を買って安い家を建てるより、やや利便性を落とした土地に品質の高い家を建てる方が、長く住む上での満足度は高くなりやすいといいます。
Q. 福岡・神奈川・大阪の土地代はどう違いますか?
竹内さん(福岡)によると駅近で坪100〜200万円程度、大沢さん(神奈川)によると横浜エリアでは坪60〜70万円が最低ラインとなる感覚で、路線やエリアによって大きく異なります。職人単価や運搬コストまで含めると、神奈川・東京エリアは総合的な建築コストが全国最高水準になると大沢さんは語っています。
都市部の狭小注文住宅における「広さ」と「質」のトレードオフについて、4人のつくり手がそれぞれの地域の実情をもとに語った内容を詳しくご覧になりたい方は、ぜひ動画をご覧ください。
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