家を建てた後に「なんとなく愛着が薄れてきた」と感じる人は少なくありません。一方で、何十年経っても大切にしたいと思える家には、共通する「条件」があります。この講義では、全国の工務店のつくり手たちが、耐久性・断熱・手触りといった多角的な視点から、注文住宅における「長く愛される家づくり」の本質を語っています。
- 軒(のき)が家の耐久性と美しさを長期間守る
- 断熱と換気の両立が「勝手に痛まない家」の土台
- 手触りのよい素材が住む人の愛着と記憶をつくる
- 大黒柱などの本物素材が耐久性と情緒を同時に満たす
- 耐久性・デザイン・手触りはトータルで考えるべきもの
目次
1. 「長く愛される家」の条件をつくり手に聞いてみた

この講義は、全国の工務店のつくり手たちが一堂に会し、「長く愛せる家への条件」をそれぞれの言葉で語るところから始まります。各自がキーワードを紙に書いて一斉に公開するという形式で進んだのですが、そこに並んだのが「のき(軒)」「断熱と換気」「手触り」「高耐久性」という4つの言葉でした。
デザイン的な視点、性能的な視点、感覚的な視点がそれぞれ出てきたことに対し、動画では「面白いね、デザインの部分と性能的な部分と感覚的な話が混在してる」と場が盛り上がりました。この多様な切り口こそが、「長持ちする家」を考える上での重要な示唆になっています。
2. 軒(のき)が家を守る——日本の気候風土に根ざした耐久性

2-1. 軒は「家を長持ちさせる」構造的な役割を果たす
動画では大木さんが「のき(軒)」を長く愛される家の条件として挙げています。大木さんの言葉を借りれば、軒がしっかり伸びていた方がもちろん家も長持ちするというのが基本的な考え方です。
「のきがしっかり伸びてた方がもちろん家も長持ちしていきますし、最近のきがない家も多い中で、しっかりのきがあった方が日本らしい家でね、古くていい建物があったりしますから、見るとやっぱりいいなと思います。家も長持ちするし、見た目も美しく保てる。それが日本のフードにも当てはまるのかなと。」
軒は外壁への直接的な雨風の当たりを防ぎ、外壁材の劣化を遅らせる機能を持っています。日本は年間を通じて雨量が多く、湿度の変化も大きいため、軒の出が外壁の耐久性に直結することをつくり手たちは口をそろえて認識していました。
2-2. 日本の気候風土と軒の関係
動画では、ヨーロッパ(特にフランス)の建物には軒がほとんどなく、石造りの壁体で耐候性を担保しているという話題も出ました。一方ドイツでは軒がある建物も見られるといいます。「気候風土が違えば建築の形も変わる」というのがつくり手たちの共通認識で、日本の高温多湿な環境には軒のある設計が合理的だという結論に至っています。
3. 断熱と換気——「勝手に痛まない家」をつくる2つの柱

3-1. 家が傷む本当の原因は「温度差と湿気」
夏見さんは「断熱と換気」を条件として挙げ、その理由を「家が勝手に痛まないようにするために必要な2つの要素」と説明しています。
「勝手に痛まないっていうのが、すごく大事で。人が生活することと外が、実は真逆の時がたくさんある。それをちゃんとしておくと家が傷まない。断熱がしっかりあって結露しないし、換気もしていれば空気も清潔に保てる。この2つがちゃんと成り立ってれば、家を守るものとして根本的に大事なことになる。」
内側(室内)と外側(屋外)の温度・湿度の差が大きければ大きいほど、結露が発生しやすくなります。夏見さんが指摘するように、断熱と換気はセットで機能するもので、片方だけでは家の長寿命化には不十分です。
3-2. 断熱・気密は「前提」として語られる
動画の中で、つくり手の一人は「高断熱・高気密はもう当たり前にあった上での話」と述べています。現代の注文住宅では断熱・気密性能はベースラインであり、その上に設計やデザインの工夫が積み重なるという認識が示されました。
4. 手触りのよい素材が「愛着」を生む

4-1. 飯田さんが語る「手触り」という感覚的な条件
飯田さんは「手触り」を長く愛される家の条件として挙げました。「不易(ふえき)」という言葉も念頭にあったと説明しており、時代のブームに左右されない、ずっと長く愛され続けるものという意味で素材の質を重視しているといいます。
具体的には、玄関の建具や家具の扉を開けたときに指先が触れる「角の感触」「ざらつき感」といった細部にこだわっています。飯田さんは玄関ドアや木製建具の引き手に金属系の冷たい素材を使わないことをルールにしており、「寒い中帰ってきて冷たいものに触れなくていい」という生活者目線の理由を挙げています。
4-2. 大黒柱に「抱きつく」——素材が記憶をつくる
動画の中で最も印象的なエピソードの一つは、大黒柱への愛着についての話です。
「ちょっと心が沈んだ時とか、家に抱きつく感覚で。疲れて帰ってきてその柱に鼻を突っ込む。年数が経っても、最初感じていた匂いが薄れてきた頃に鼻を突っ込むと、すごく安心する。」
丸みを帯びた木の柱は視覚だけでなく触覚・嗅覚にも働きかけ、住む人の感情的な拠り所になります。つくり手の一人は「柱は嫌われがちで、なくす方向が多いけれど、こういう感触的な愛着という意味でもあるといい」と語っており、本物素材の柱が持つ情緒的な価値を強調していました。
また、子どもの身長を柱に刻む「成長記録」も、住み続けることへの動機づけになるという話も共有されました。「あの時こんなに小さかったんだ、という思い出が残る」という視点は、家を「物」ではなく「記憶の器」として捉えるつくり手の姿勢を示しています。
5. 耐久性・デザイン・手触りはトータルで考える

5-1. どれか1つだけが良くても「長く愛される家」にはならない
動画の終盤で、つくり手の一人は「結局何かだけ良ければいいという感覚ではないのかもしれない」とまとめています。構造的な耐久性、断熱・換気による性能、そして手触りや匂いといった素材の感覚的な質——これらがトータルで揃ってはじめて、住み続けたいと思える家になるという認識が共有されました。
動画では吉田さんも「長持ちさせないことには、ずっと住み続けたいと思っても実現できない。そこに愛するという気持ちが重なる」と語っており、耐久性は「愛される家」の絶対的な前提であることが改めて確認されています。
5-2. 本物素材が耐久性と情緒を同時に満たす
大黒柱のような本物の木材を使うことは、手触りや愛着という情緒的な価値だけでなく、適切に管理・メンテナンスされれば長期的な耐久性にもつながります。動画では「本物を使うことによる耐久性が上がっている」という言及もあり、素材の質と耐久性は対立するものではなく、むしろ連動するものと捉えられています。
6. よくある質問

Q. 軒(のき)がない家は耐久性が低いのですか?
大木さんは「のきがない家も最近多い中で、しっかりのきがある方が家も長持ちする」と明言しています。軒がないと外壁に直接雨が当たりやすくなり、劣化が早まるリスクがあります。日本の雨の多い気候を考えると、軒の出を十分に確保することは耐久性上の合理的な選択です。
Q. 断熱と換気はどちらが優先ですか?
夏見さんは「この2つがちゃんと成り立ってれば」と、断熱と換気を並列で語っています。どちらか一方だけでは不十分で、断熱で結露を防ぎ、換気で空気を入れ替えることがセットで機能するという考え方です。
Q. 手触りにこだわる素材選びで、具体的に気をつけることは何ですか?
飯田さんは「玄関ドアや木製建具の引き手には金属系の冷たい素材を使わない」というルールを自社で設けていると語っています。寒い季節に冷たい金属を触らなくていい配慮が、日々の生活の質と愛着につながるという考え方です。
Q. 大黒柱を立てることにはどんな意味がありますか?
動画では複数のつくり手が柱を積極的に採用していると語っています。デザイン的なシンボルとしての役割のほか、空間を壁なしで緩やかに区切る機能、そして住む人が触れ・抱きつき・匂いを感じることで生まれる感情的な拠り所としての役割が挙げられました。子どもの成長を刻む記録柱としての活用も話題になっています。
Q. 「勝手に痛まない家」とはどういう意味ですか?
夏見さんが使った表現で、「住む人が特別なことをしなくても構造や素材が劣化しにくい家」を指します。断熱・換気が機能していれば結露が起きにくく、外壁への雨風の影響も軒で和らげられれば、家は自然と長持ちします。メンテナンスをきちんと行うことも前提ですが、まずは設計・素材の段階で「痛みにくい仕組み」を組み込むことが重要だと語られています。
長く愛される注文住宅の素材選びについて、より具体的なつくり手たちの言葉や議論の熱量を感じたい方は、ぜひ動画をご覧ください。
この講義の出演者
家づくり百貨には、プロのつくり手同士が「本当に信用できる」と数珠つなぎで紹介し合った全国68社の工務店・設計事務所が参加しています。記事で学んだことを、信頼できるつくり手との出会いにつなげてください。
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