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株式会社 夏見工務店

争奪戦

短パン半そでの楽しい暮らしを実現するぜ!
【たぶん日刊】

いつもありがとうございます、夏見です。
本日もメルマガご愛読ありがとうございます!

冬になると、わが家の一日は、
ファンヒーターの「争奪戦」から始まる。
まだ外は暗く、寝室の空気は
ひんやりとしている
。私が布団から抜け出して
リビングに向かうと、
もうそこには必ず二人いや、
「一人と一匹」が待っていた。

夫と、犬のジョイだ。
夫は毛布を肩からかぶったまま
ソファに座り、ジョイはその足元で
くるんと丸くなっている。
どちらも、これから始まる
儀式を知っている目だ。

「じゃあ、つけますよ」
私がそう声をかけて、
ファンヒーターのスイッチを押す。
その瞬間、夫とジョイが同時に立ち上がる。
ピッ、という電子音。数秒の沈黙。
やがて、ゴォッという小さな音とともに
温風が吹き出し始める。
その「最初の一陣」を浴びるために
二人は肩を並べてヒーターの真正面に立つのだ。

夫は腕を組み、真剣な顔で言う。
「今日も俺の勝ちだな、ジョイ」
ジョイは尻尾を振りながら、
一歩でも前に出ようとする。
鼻先すれすれまで温風に近づいて、
満足そうに目を細める。

毎朝、同じ光景。
同じやりとり。少しあきれながらも
その姿を見ると、
冬の朝の憂うつさがふっと和らいだ。

そんなある日、犬友達の友人が
「今度、うちに泊まりにおいでよ。
ジョイも一緒に」と誘ってくれた。
聞けば、新築の高気密高断熱の家
なのだという。

冬の週末、私たちは一泊の荷物と
ジョイを連れて、お邪魔することになった。
友人の家は、玄関を入った瞬間から
空気が違っていた。
外は冷たい北風が吹いているのに、
家の中はじんわりとあたたかい。
コートを脱ぎながら、夫が思わずつぶやく。

「え、暖房どこ?」
「エアコンちょっとつけてるだけだよ。
床暖もあるけど、今日は切ってる」

友人はそう言って笑った。
ジョイも、初めての場所に尻尾を
振りながら歩き回っている。

その夜は楽しくお酒を飲みながら
遅くまで話込み、私たちは借りた部屋の
布団に潜り込んだ。
ジョイも足元に丸くなって眠る。

そして翌朝。
いつものクセで、
私は少し早く目を覚ました。
時計を見ると、まだ6時前。
隣を見ると、
珍しく夫もすでに目を開けていた。

「……なあ」
夫が小さな声で言う。
「ヒーター、どこだっけ?」
「あ、ここファンヒーターないよ?」
そう答えると、夫はきょとんとした顔をした。
その足元では、ジョイもムクリと起き上がり、
首をかしげている。
まるで「いつものあれは?」と
聞いているかのように。

夫とジョイが、同じ角度で首をかしげる。
その様子がおかしくて、
私は思わず吹き出してしまった。
「だってさ、寒くないでしょ?」
布団から手を出してみる。
たしかに、空気はひんやりはしているけれど、
あの「刺すような冷たさ」ではない。
頬も、指先も、そこまで冷えていない。

夫も布団から顔を出し、部屋を見回す。
「……あれ? たしかに、言われてみれば、
そこまで寒くないな」
 ジョイも布団から頭だけ出し、
くんくんと鼻を鳴らしたあと、
特に問題なさそうにまた丸くなった。

結局その朝、私がヒーターのスイッチを
押すことはなかった。というより、
押すべきスイッチ自体が、
そもそも存在していなかったのだ。
キッチンに行けば、床はひんやりしつつも、
足が凍えるほどではない。
ダイニングに座っても
、息が白くなることもない。
友人はコーヒーを淹れながら、
当たり前のように言った。

「前のアパートの時はね、
朝起きたらまずストーブフル稼働だったよ。
でも、この家に引っ越してから、
あんまり『暖めなきゃ』って
思わなくなったんだ」

夫が、少し悔しそうな顔で笑う。
「じゃあうちの、あの毎朝の争奪戦は……」
「……ほとんど気合いと根性だけの
儀式だったってことだね」

私がそう言うと、ジョイがテーブルの下から
ひょこっと顔を出してきた。まるで
「ぼくの努力も?」と確認しに
来たみたいで、思わず頭をなでる。
帰り道の車の中、夫がぽつりと言った。
「なあ、うちもさ……いつかあんな家に
住めたらいいな。朝からヒーターに
並ばなくて済むくらいの」

「えー、でもあの二人で並んでる姿、
けっこう好きなんだけど」

バックミラー越しに見ると、
後部座席でジョイが気持ちよさそうに
丸くなっている。車内は、
暖房のおかげでほどよくあたたかい。

私はふと思う。
たしかに、高気密高断熱の家は快適だし、
冬の朝にヒーターの取り合いをしなくて
済むのは魅力的だ。でもね。。。

夫とジョイが、温風の
「一番あたたかい場所」をめぐって
毎朝小さな争いを繰り広げるあの時間。
それもまた、わが家の冬だけに訪れる、
小さな幸せなのかもしれない。

翌朝。いつものように自分の家で
目を覚まし、私はリビングへ向かった。
そこには、やっぱり二人が並んで待っていた。

夫とジョイ。
ファンヒーターの前で。

「じゃあ、つけますよ」

 ピッ。

その数秒後、温風がふわりと吹き出す
その瞬間に立ち会おうと、
同時に一歩前へ出る二人を見ながら、
私は心の中でつぶやいた。

無駄かどうかなんて、どうでもいいか。
この光景があるうちは、うちの冬はきっと大丈夫。
でもこの後すぐに家を建てることになるなんて
想いもしなかった!

では!また明日!

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