
こんな投稿を見つけた。
SNSを眺めていると、フォロワー数十万人を誇る住宅系インフルエンサーが「間取り相談」「設計監修」「家づくりプロデュース」などのサービスを提供しているのをよく見かける。おしゃれなビジュアル、わかりやすい解説、親しみやすいキャラクター。「この人に頼みたい」と思う気持ちはよく理解できる。
ただ、立ち止まって考えてほしいことがある。その人は「建築士」として契約しているのか。何かあったとき、誰が責任を取るのか。
結論から言う。住宅系インフルエンサーへの設計・監修依頼の多くは、構造としては「白タク」にあたり得る。まず前提として、白タクは違法だ。違法だと知ったうえで乗るのなら、それは乗る人の自己責任で、私がとやかく言うことではない。本当に危ないのは、それが白タクだと知らずに乗ってしまうことだ。
- 住宅系インフルエンサーへの設計・監修依頼は、白タク的な行為にあたり得ることを依頼者は知っておく必要がある
- 白タクは違法。違法だと知ったうえで乗る(依頼する)なら、その結果は依頼者の自己責任になる
- いちばん危ないのは、白タクだと知らずに乗ってしまうこと
- 何か問題が起きたとき、責任の所在が不明確になりやすい構造がある点を理解しておくべき
- 「おしゃれ・バズっている」という理由だけで依頼し、責任構造を理解しないまま進めることは大きなリスクになる
- 依頼前に「資格・契約形態・責任の所在」の3点を必ず確認することが、施主にとっての最大の自衛策になる
目次
1. 住宅系インフルエンサーへの設計・監修依頼は「白タク」にあたり得る

「白タク」とは、タクシーの営業許可を持たない一般車両が、有償で旅客を運ぶ行為を指す。道路運送法で禁止された、れっきとした違法行為だ。運転の技術や車の快適さの話ではなく、「その行為を合法的に行う資格・許可があるかどうか」の問題である。
住宅の設計・監理においても、同じ構図がある。
建築士の資格を持たない人物が、報酬を得て住宅の設計や監修を請け負う行為は、建築士法の観点から見ると無資格設計にあたり得る。SNSで住宅コンテンツを発信していること、フォロワーが多いこと、実際に家が好きで知識があること――これらはすべて「免許」とは別の話だ。タクシードライバーが運転が上手でも、営業許可がなければ白タクであるように、知識や経験があっても資格がなければ建築士法上の「設計」はできない。
インフルエンサーが提供するサービスの名称は「相談」「アドバイス」「プロデュース」「監修」など様々だが、実態として間取りを提案したり、仕様を決める立場に立ったりしているケースは少なくない。その行為が建築士法上の「設計」に該当するかどうかは、名称ではなく内容で判断される。
2. 建築士法が定める「設計・監理」とは何か――資格が必要な業務範囲

2-1. 建築士法における「設計」の定義
建築士法では、建物の構造と規模に応じて、建築士でなければ設計・工事監理を行ってはならない範囲を定めている。木造住宅でも、延べ面積100㎡を超えるもの、または3階建て以上のものは、一級・二級・木造建築士のいずれかでなければ設計できない。さらに、報酬を得て設計や工事監理を業として行うには、建築士事務所の登録も必要だ。
「設計」とは、建築物の設計図書を作成することを指す。単なるイメージスケッチや参考画像の提示ではなく、実際に家を建てるための図面を作ること、あるいはそれに準じる実質的な業務が該当する。
2-2. 「工事監理」も同様に資格が必要
工事が設計図書どおりに進んでいるかを確認する「工事監理」も、建築士の独占業務だ。施工現場に足を運んで「ここはこうしてください」と指示する行為が、資格のない人物によって行われている場合、それもまた無資格の業務遂行となり得る。
「監修」という言葉はふわっとしているが、実態が工事監理に相当するのであれば、資格が必要な業務に踏み込んでいることになる。
2-3. 「規模が小さければOK」ではない
確かに、延べ面積100㎡以下・2階建て以下の木造住宅は、資格がなくても設計できる。ただ、100㎡はおよそ30坪。4人家族の家なら超えることのほうが多いし、報酬を得て業として設計するなら事務所登録の問題も残る。「小規模だから大丈夫」という判断を、依頼者側が勝手にしてはいけない。
3. 白タクは違法。知って乗るなら自己責任、知らずに乗るのが問題

ここで立場をはっきりさせておく。
白タクは違法だ。正規のタクシーより安い、すぐ来てくれる、顔見知りで気楽――どんな理由があっても、違法であることは変わらない。そして白タクに乗った客は、事故が起きても正規のタクシーのような保険や補償を期待できない。その不利益は、乗ると決めた本人が引き受けることになる。
違法だと知ったうえで乗るのなら、それは乗る人の自己責任だ。大人の判断に、私がとやかく言うつもりはない。
住宅の設計・監修依頼も同じだ。資格や契約の裏付けがないことを承知で、インフルエンサーのセンスに賭けて頼むのなら、その結果を引き受けるのは依頼した施主自身になる。
本当に危ないのは、それが白タクだと知らずに乗ってしまうことだ。
正規のタクシーと同じ補償があると思って白タクに乗るのと、「これは白タクで、何かあっても補償はない」と知ったうえで乗るのとでは、話がまったく違う。住宅の設計依頼でも同じことが言える。無資格設計であることを理解したうえで依頼するか、気づかないまま依頼するか――この差が、後になって大きな問題を引き起こす。
4. 何か起きたとき、誰が責任を取るのか――正規契約との違い

4-1. 有資格者との契約が持つ意味
正規の建築士と設計契約を結んだ場合、建築士は設計図書に対して法的な責任を負う。瑕疵があれば民事上の責任が発生し得るし、重大な過失があれば建築士免許の停止・取消という行政処分もあり得る。施主が苦情を申し立てる先も、業界団体や行政機関として存在している。
つまり、有資格者との正規契約には「何かあったときの受け皿」がある。
4-2. インフルエンサー依頼では受け皿がない
一方、無資格者への設計依頼では、この受け皿が存在しない。「相談」「アドバイス」という形で間取りを提案してもらい、施主がそれを工務店に渡して建てた家に欠陥があったとき、誰に責任を問えるのか。
工務店は「施主が持ってきた間取りをもとに建てた」と言うかもしれない。インフルエンサーは「あくまでもアドバイスだった」と言うかもしれない。法的に有効な設計契約が存在しなければ、責任の追及は著しく困難になる。
4-3. 「仲良しだから大丈夫」は通用しない
SNSで信頼関係を築いてきた相手への依頼だから安心、という感覚も理解できる。しかし、関係性がいくら良好でも、法的な責任の枠組みがなければ、問題が起きたときに「仲良しだったから」という事実は何の保護にもならない。むしろ、感情的なもつれを引き起こすことすらある。
5. 「おしゃれ・バズっている」だけで依頼するリスク

SNSにおける人気と、住宅設計の専門性はまったく別のものだ。
フォロワー数はコンテンツの発信力を示す指標であって、設計の安全性や法的な適格性を保証するものではない。バズっている間取りが自分の家族構成・敷地条件・予算に合っているとも限らない。おしゃれに見える写真は、撮影時のライティングや家具選びの産物であって、構造的な安全性や断熱性能とは無関係だ。
施主が「このインフルエンサーの家かっこいい」「この人の動画を見て家づくりしたくなった」と感じること自体は、何も問題ない。ファンになり、その人の美的センスを参考にすることも悪くない。
問題は、そこから「設計・監修を依頼する」という行動に移るとき、人気と専門資格を同一視してしまう錯覚が起きやすい点にある。有名であること、SNSで認められていること、フォロワーから称賛されていること――これらは「建築士として家を設計できる」ことを意味しない。
また、バズっているがゆえに依頼が集中し、一人のインフルエンサーが多数の案件を掛け持ちしている場合、個別の家に注ぎ込まれる時間や注意が分散するリスクも現実的にある。
6. 依頼前に確認すべき3つの問い――資格・契約形態・責任の所在

実際にインフルエンサーへの相談・依頼を検討しているなら、以下の3点を必ず確認してほしい。これは相手を疑うためではなく、自分を守るための確認だ。
6-1. 「この人は何の資格を持っているのか」
まず確認すべきは、その人物が建築士の資格(一級・二級・木造)を保有しているかどうかだ。資格を持っているなら、登録番号を尋ねることもできるし、建築士事務所の登録番号も確認できる。
「インテリアコーディネーター」「住宅関連の民間資格」は存在するが、これらは建築士法上の設計・監理を行う根拠にはならない。資格の名称を聞くだけでなく、「建築士として設計・監理を行う事務所登録があるか」まで確認するのが確実だ。
6-2. 「どういう契約形態で進めるのか」
口頭での相談、SNSのDMでのやり取り、料金を支払ってのオンライン相談――形態はさまざまだが、正式な設計委託契約書を交わすかどうかは決定的な違いだ。
設計委託契約書には、業務の範囲・報酬・納期・責任の範囲が明記される。これがない場合、何かトラブルが起きても「業務範囲だったのか、単なるアドバイスだったのか」の線引きが曖昧なまま紛争になる。
6-3. 「何かあったとき、誰が・何に対して責任を負うのか」
もっとも大切な問いかもしれない。「この依頼に基づいて建てた家に欠陥があったとき、あなたは何に対してどう責任を取りますか」と聞いてみることだ。
答えが明確でない場合、あるいは「責任は工務店が負う」「私はアドバイスをしただけ」といった返答である場合、それはそういう性質のサービスだということだ。それを理解したうえで依頼するかどうかを判断する。
7. まとめ:白タクは違法。知って乗るなら自己責任、知らずに乗ってはいけない

住宅系インフルエンサーへの設計・監修依頼を「白タク」にたとえたのは、構造を正確に理解してもらうためだ。
白タクは違法だ。安さや手軽さに惹かれて乗る人はいるが、何かあったときの補償はなく、そのリスクは乗った本人が負う。「違法だと知って乗るなら自己責任」とは、そういう意味である。
インフルエンサーへの依頼も同じだ。感度の高いデザイン提案や親しみやすさに価値を感じる施主もいるだろう。それでも頼むなら、「建築士法上の正規の設計委託契約ではない可能性がある」「何か問題が起きたとき、法的な保護の枠組みがない」「その結果は自分が引き受ける」――この三点を承知したうえで決めることだ。
いちばん避けたいのは、白タクだと知らないまま乗ってしまうことである。
おしゃれな家を建てることと、安全に家を建てることは、本来矛盾しない。ただ、人気のインフルエンサーに依頼すれば両方が自動的に手に入る、という発想は危うい。人気と専門資格は別物だ、ということを頭に置いておくだけで、依頼前の判断は大きく変わるはずだ。
誰に何を頼むのかを決めるのは施主自身だ。その判断が良いものになるよう、「資格・契約・責任」の三点を確かめてから動いてほしい。
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