「省令準耐火構造にすれば火災保険が安くなると聞いたけれど、うちの家はなれるの?」
こういった質問を施主から受けることがある。答えは「工法と仕様次第」なのだが、そもそも省令準耐火構造が何であるか、準耐火構造や耐火構造とどう違うのかを正確に理解している人は少ない。用語が似ていて混同しやすいうえ、火災保険の「T構造」「H構造」という区分まで絡んでくるので、頭の中が整理できないまま設計が進んでしまうケースも少なくない。
この記事では、省令準耐火構造の定義から、火災保険料への影響、採用できる工法・できない工法の違い、コスト面の注意点、そして施主が工務店に確認すべきタイミングまでを順番に解説する。工務店の立場から本音で伝えるので、営業トークではなく現場の実情として読んでほしい。
- 省令準耐火構造は建築基準法ではなく住宅金融支援機構の基準に基づく独自の位置づけで、準耐火構造とは別物
- 火災保険ではT構造に分類されるため、H構造より保険料が大幅に低くなる可能性がある
- 採用できるかどうかは工法・仕様次第であり、すべての木造住宅が自動的に対象になるわけではない
- 対応には壁内部の防火仕様など細かい施工条件があり、コストと確認事項が発生する
- 家づくりの早い段階で工務店に確認することが最重要——設計が固まってからでは対応できないことがある
目次
1. 省令準耐火構造とは?住宅金融支援機構が定める基準の位置づけ

1-1. 建築基準法ではなく「機構の基準」に基づく
省令準耐火構造という言葉を初めて聞いたとき、多くの人は「建築基準法で定められている構造の一種」だと思う。しかし実際には違う。
省令準耐火構造は、住宅金融支援機構(旧・住宅金融公庫)が定めた独自の基準に基づく構造区分だ。正式名称は「住宅金融支援機構の定める省令準耐火構造の住宅」といい、フラット35の融資対象物件の仕様基準として生まれた経緯がある。建築基準法が定める「準耐火構造」とは根拠となる法令も、満たすべき要件も異なる。
建築基準法の体系の外で定められた基準である点が、後述する「混同しやすい」理由の核心だ。
1-2. 何を目的にした基準か
省令準耐火構造が目指しているのは、主に「延焼を遅らせること」と「火災が壁の中で燃え広がるのを防ぐこと」の二点だ。
住宅で火災が発生した場合、壁や天井の内部を伝って火が広がると、外から見えない部分で燃焼が進み、逃げ遅れや消火の遅れにつながる。省令準耐火構造ではこうした「隠れた延焼」を抑制するための仕様が求められる。
建築基準法上の準耐火構造が「建物そのものの耐火性能」を主眼に置いているのに対し、省令準耐火構造は「住んでいる人が安全に避難できる時間を確保する」という考え方が根底にある。
2. 耐火構造・準耐火構造との違いと混同しやすいポイント

2-1. 三つの「耐火」が並ぶことで起きる混乱
家づくりの場面では「耐火構造」「準耐火構造」「省令準耐火構造」の三つが登場する。名前が似ているうえ、それぞれ根拠となる法律や機関が異なるため、施主はもちろん、担当者でも混乱することがある。
整理すると以下のようになる。
耐火構造は建築基準法に基づくもので、火災が起きても建物が倒壊しないことを一定時間保証する高い性能基準だ。一般的なRC造(鉄筋コンクリート造)のマンションなどがこれに相当する。
準耐火構造も建築基準法に基づくが、耐火構造より要求レベルは下がる。木造でも一定の仕様を満たせば準耐火構造として認定される。
省令準耐火構造は前述のとおり、住宅金融支援機構の基準によるものだ。建築基準法の準耐火構造とは別立てで定義されており、どちらか一方を満たしても自動的にもう一方を満たすわけではない。
2-2. 「準耐火」という言葉が共通しているだけで別物
最も混同されやすいのは「準耐火構造」と「省令準耐火構造」の関係だ。
建築基準法上の準耐火構造を取得した木造住宅は、省令準耐火構造の要件も満たしている場合が多いが、省令準耐火構造を満たしていても建築基準法の準耐火構造には該当しないケースがある。つまり、「省令準耐火 ≠ 準耐火構造」であり、イコールではない。
工務店から「うちは省令準耐火対応です」と言われたとき、それが建築基準法の準耐火構造とは別の話だという認識を持っておくことが重要だ。
3. 火災保険料への具体的な影響|T構造とH構造で何が変わるか

3-1. 火災保険における建物の「構造区分」
火災保険では、建物の構造によって保険料が変わる仕組みがある。一般的に使われる区分として「M構造(マンション構造)」「T構造(耐火構造)」「H構造(非耐火構造)」がある。
木造住宅の場合、通常はH構造(非耐火構造)に分類される。H構造は火災リスクが高いとみなされるため、保険料が高くなる傾向がある。
一方、省令準耐火構造の要件を満たした木造住宅はT構造(耐火構造)として扱われ、H構造より保険料が低くなるのが一般的だ。
3-2. 保険料の差はどの程度か
具体的な保険料差は保険会社・建物の所在地・補償内容・保険期間などによって異なるため、ここで断定的な数字を示すことは難しい。ただ、YouTubeや業界内の情報として「半額以下になることもある」「数十万円単位の差が出る」という話が流通しているのは事実だ。
目安として、長期の火災保険で試算すると、H構造とT構造の差が大きく出るケースでは、保険料の総額に数十万円以上の開きが生じることも珍しくない。
この差が生まれる理由はシンプルで、省令準耐火構造は「火が燃え広がりにくい仕様」を担保しているため、保険会社がリスクを低く評価するからだ。
3-3. 証明書がなければ適用されない
注意が必要なのは、省令準耐火構造であることを保険会社に認めてもらうためには、それを証明できる書類が必要だという点だ。工務店から発行される「省令準耐火構造の住宅である旨の確認書」や、住宅金融支援機構の設計検査を受けた証明書などが求められることが多い。
「うちは省令準耐火で建てたはずなのに、保険会社からT構造として扱ってもらえなかった」というトラブルは実際に起きている。書類の有無と保険申請のタイミングは、竣工前から工務店と確認しておくべき事項だ。
4. 採用できる工法・できない工法の違い

4-1. 工法によって対応のしやすさが大きく異なる
省令準耐火構造は「どんな木造住宅でも自動的に対象になる」わけではない。採用できるかどうかは、建て方(工法)と仕様によって変わってくる。
2×4工法(枠組壁工法) は、構造の特性上、省令準耐火構造の要件を比較的満たしやすい工法とされている。面で荷重を受ける構造が、防火性能においても有利に働くためだ。ハウスメーカーの多くがこの工法を採用しており、標準仕様で省令準耐火構造の基準を満たしているケースが多い。
木造軸組工法(在来工法) は、2×4に比べると省令準耐火の対応がやや複雑になる。構造的に開口部が多く、壁内部の仕様をひとつひとつ確認・設定する必要があるため、対応できるかどうかは工務店の知識と経験に依存する部分が大きい。
4-2. SE構法や特殊な軸組工法の場合
SE構法や金物工法など、軸組の中でも独自の接合方法を採用している工法では、省令準耐火に対応するための追加仕様の組み立て方が変わってくる場合がある。こうした工法を採用している工務店では、省令準耐火対応の実績があるかどうかを直接確認することが重要だ。
「対応できます」と言われても、実際に住宅金融支援機構の設計審査や証明書発行まで経験しているかどうかで、信頼性は大きく変わってくる。
5. 省令準耐火構造にするために必要な仕様とコスト面の注意点

5-1. 求められる主な仕様
省令準耐火構造として認められるためには、大まかに以下のような仕様要件がある。
まず外壁・軒裏は、所定の防火性能を持つ材料・工法で仕上げることが求められる。次に屋根は、一定の耐火性能が必要だ。そして最も見落とされやすいのが壁内部の仕様だ。
壁の内部では「ファイヤーストップ(気流止め)」と呼ばれる措置が必要になる。壁の中に空気の通り道があると、火災時にそこを伝って炎や熱気が広がる。これを防ぐために、壁内部の空洞をふさぐ処理をしなければならない。コンセントボックスの処理なども含め、施工現場での細かい対応が求められる。
さらに天井・界壁の防火被覆も要件に含まれる場合がある。石膏ボードの厚みや二重張りが仕様書に明示されていることが多い。
5-2. コストはどのくらい増えるか
追加コストについては、どの仕様をどこまで変更するかによって異なるため、一概には言えない。
ただし、省令準耐火構造への対応で発生するコストは「数万円〜数十万円程度の追加」が目安として語られることが多い。対して、火災保険料でT構造が適用されることで得られる長期的な節約額が上回るケースも十分ある。
ここで大事なのは「コストが増える」という事実だけを見て判断しないことだ。ライフサイクル全体で見たときのコストパフォーマンスを工務店と一緒に試算することが、正しい判断につながる。
5-3. 「標準仕様に含まれているか」を確認する
工務店によっては、省令準耐火構造への対応を標準仕様に組み込んでいるところもある。その場合、追加コストはほぼゼロか最小限に抑えられる。逆に、省令準耐火への対応経験が少ない工務店に頼むと、仕様の積み上げに時間がかかり、見積もりが後から膨らむこともある。
「標準仕様で対応していますか? それとも追加オプションですか?」という質問は、最初の打ち合わせで必ず確認しておきたい。
6. 施主が工務店に確認すべきタイミングと質問のポイント

6-1. 「設計が終わってから」では遅い
省令準耐火構造に関して最もよくある失敗が、「設計がほぼ固まったあとで確認したら、対応できないことがわかった」というものだ。
省令準耐火構造への対応は、間取りや構造計画の段階から意識しておく必要がある。壁の仕様、開口部の配置、天井裏の処理など、後から変更しようとすると工事費が大幅に増えたり、設計を大きく変えなければならなくなったりする。
確認するタイミングは「工務店との最初の打ち合わせ」もしくは「プラン提案を受ける前」が理想だ。
6-2. 施主が聞くべき具体的な質問
以下のような質問を工務店にぶつけてみることを勧める。
「御社の標準仕様は省令準耐火構造に対応していますか?」
「省令準耐火構造の証明書は発行できますか? 発行実績はありますか?」
「省令準耐火構造にした場合、追加費用はどのくらいかかりますか?」
「住宅金融支援機構の設計審査を受けた実績はありますか?」
これらの質問に対してスムーズに答えられる工務店は、省令準耐火構造への対応に慣れている可能性が高い。逆に「確認します」が連続するようであれば、対応経験が薄いと判断してよい。
6-3. 火災保険会社との連携も意識する
省令準耐火構造での契約をT構造として保険申請するには、前述のとおり証明書が必要だ。保険会社によっては求める書類の種類が異なることもある。
できれば引き渡し後に慌てないよう、工務店・保険代理店・施主の三者が竣工前に必要書類を確認し合う機会を設けるのが望ましい。竣工検査が終わったあとに「証明書を取れなかった」では手遅れになることもある。
7. まとめ|家づくりの早い段階で工務店に確認することが重要

省令準耐火構造は、名前の似た「準耐火構造」や「耐火構造」とは根拠となる制度が異なる、住宅金融支援機構による独自の基準だ。建築基準法の枠組みの外にある概念だと理解しておくことが出発点になる。
火災保険との関係でいえば、この基準を満たすことでT構造として扱われ、H構造より保険料を下げられる可能性がある。その差が長期でみると無視できない金額になることも珍しくない。
ただし、対応できるかどうかは工法と仕様次第で、どの木造住宅でも自動的に対象になるわけではない。2×4工法は比較的対応しやすいが、木造軸組工法では工務店の経験と知識が重要になる。コスト面でも追加費用が発生するケースがあるが、保険料の節約効果と合わせて試算することが大切だ。
そして何より重要なのは確認のタイミングだ。設計が進んでしまってからでは対応が難しくなる。最初の打ち合わせで「省令準耐火構造に対応できますか?」と一言聞くだけで、後の選択肢がまったく変わってくる。
家づくりは決めることが多くて忙しい。だからこそ、火災保険料という「長く効いてくる費用」に関わる省令準耐火構造の話は、後回しにせず早い段階で工務店と詰めておくことを強く勧める。
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