「今家を買うなんて信じられない」――そんな言葉をSNSや身近な会話で耳にする機会が増えています。金利上昇、人口減少、2030年問題。不安材料を挙げれば切りがない中で、では「5年後・10年後に買えばいいのか」というと、それもまた別のリスクを抱えています。
この記事では、住宅購入を今すぐ決断する場合・5年後・10年後に先延ばしする場合・ずっと賃貸のままでいる場合を比較しながら、金利・人口動態・税制・資産価値の観点から冷静に整理します。「なんとなく不安だから待つ」ではなく、数字と根拠をもとに自分の判断を固めるための情報として読んでください。
- 「待てば安くなる」は必ずしも正しくない。金利上昇と物価上昇が重なると、5年後・10年後の購入総額は今より高くなるケースが多い
- 変動金利での住宅ローンは2026年以降も上昇局面にあり、10年固定・変動の選択は慎重に検討する必要がある
- 2030年問題による人口減少は郊外・地方の資産価値に直撃するが、駅近・都市部物件は底堅い動きが続く見通し
- 購入後5年以内の売却は譲渡所得税率が高く、短期売却を前提とした購入計画は損失リスクが大きい
- 後悔しない物件選びのカギは「自分のライフプランを軸に、エリアの人口動態と築年数の価格推移を組み合わせること」
目次
1. 「今家を買う人が信じられない」と言われる5年後・10年後のリスクとは

1-1. 「今買うのはバカ」論のリアルな根拠
YouTube上では「35年ローンで家を買う人はバカ」という刺激的なタイトルの動画が拡散され、特に20〜30代の間で「住宅購入=損」というイメージが広がりつつあります。この主張の背景にある論点は、大きく三つです。
一つ目は住宅価格の高止まり。2022年以降の円安・資材高騰により、新築マンション・戸建ての価格は首都圏を中心に過去最高水準を更新し続けました。2026年現在も価格調整の兆しは限定的で、「高値づかみ」を恐れる声は根強くあります。
二つ目は人口減少です。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によれば、総人口は2030年代以降に急速な減少フェーズへ入ることが確実視されています。住む人が減れば空き家が増え、資産価値が下落するという理屈は、確かに一定の説得力を持っています。
三つ目が金利リスクです。日銀は2024年3月にマイナス金利政策を解除し、同年7月には政策金利を0.25%へ引き上げました。その後も段階的な正常化路線が続いており、変動金利型住宅ローンの基準金利は上昇傾向にあります。「低金利時代に組んだローンが10年後に家計を圧迫する」という懸念はリアルです。
1-2. 「待つリスク」も同時に存在する
一方で、「待てばいいわけでもない」という事実も見逃せません。家賃は払い続けても資産に変わらず、賃貸生活の継続は純粋なコストとして積み上がるだけです。高齢になると賃貸借契約を断られるケースが増えるという問題も現実にあり、老後の住居確保という観点から軽視できません。
「今買う人が信じられない」と言う人ほど、「では10年後に何が変わっているのか」を具体的に説明できないことが多いものです。感情的な不安と、論理的なリスク評価は分けて考える必要があります。
2. 住宅購入タイミング別の支払総額シミュレーション(今・5年後・10年後・賃貸)

2-1. シミュレーションの前提条件
比較のベースとなる条件を整理します。
- 物件価格:4,000万円(新築戸建て想定)
- 自己資金:400万円(頭金10%)
- 借入額:3,600万円
- 返済期間:35年
- 金利:今購入=変動0.5%スタート、5年後購入=1.0%、10年後購入=1.5%(いずれも元利均等返済)
- 賃貸:月14万円(管理費込み)、更新料・退去費用は別途
金利の想定については、2024〜2025年の政策金利引き上げの実績と、日銀が示す段階的正常化路線をベースにした試算です。ただし金利水準は経済情勢次第で変化するため、あくまで傾向を把握するためのシミュレーションとして参照してください。また5年後・10年後の物件価格は、エリアによって上下しますが、ここでは比較条件を統一するため4,000万円で据え置いています。
2-2. 総支払額の比較
今すぐ購入した場合(変動0.5%)
月々の返済額は約9万3,000円。35年間の総返済額は概算で約3,906万円。頭金400万円と合わせた総支出は約4,306万円です。
5年後購入した場合(変動1.0%想定)
同じ物件価格4,000万円でも、金利が1.0%に上昇していると月々の返済額は約10万1,000円になります。35年の総返済額は約4,258万円。さらに5年間の賃貸費用(月14万円×60ヶ月=840万円)が加算されると、総コストは約5,498万円に達します。
10年後購入した場合(変動1.5%想定)
金利1.5%での月返済は約11万円。35年総返済は約4,630万円。賃貸10年分(月14万円×120ヶ月=1,680万円)を足すと、総コストは約6,710万円になります。
ずっと賃貸の場合
月14万円を35年間払い続けると総支出は約5,880万円。更新料や退去費用を加えると6,000万円を超える計算になります。加えて35年後に残る資産はゼロです。
このシミュレーションが示すのは、「待てば待つほど総コストが増える可能性が高い」という傾向です。もちろん、郊外・地方エリアで物件価格が大幅に下落した場合は話が変わります。ただし都市部の駅近物件については、価格が急落するシナリオを前提にするのは楽観的すぎます。
3. 住宅ローン金利上昇が5年後・10年後の返済に与える影響

3-1. 変動金利の「5年ルール・125%ルール」の落とし穴
変動金利型の住宅ローンには「5年ルール」と「125%ルール」という仕組みがあります。5年ルールとは、金利が変動しても返済額の見直しは5年ごとにしか行われないというもので、見直し後の返済額が従来の1.25倍を超えないよう上限を設けるのが125%ルールです。
一見すると返済額が急増せず安心に見えますが、問題はその内訳です。返済額が据え置かれる間も利息は増加しているため、元本がほぼ減らない「未払い利息」が発生するリスクがあります。金利上昇局面が長引くと、10年後の残債が借入当初とほとんど変わらない、という状況に陥る可能性があります。
なお、ネット銀行系の変動金利商品の中にはこれらのルールを適用しない商品もあるため、契約前に必ず約款を確認することが必要です。
3-2. 10年固定は「地雷」なのか
固定期間終了後に変動または再固定へ移行する際、当時の金利環境によっては返済額が大幅に跳ね上がることがある――この点から「10年固定は地雷」という言説がYouTube上で広まりました。
実際のところ、10年固定の問題は固定期間そのものより「終了後の条件」にあります。固定期間終了後は多くの場合、当初の優遇幅が縮小され、純粋な変動金利より不利な条件になるケースがあります。選ぶ際は、固定期間終了後の適用金利と優遇幅を必ず確認してください。
3-3. 固定か変動か、2026年の現状判断
2024年以降、日銀は段階的な利上げを進めており、政策金利のさらなる上昇余地が残っています。この局面では、全期間固定(フラット35)の安定性に一定の合理性があります。ただし全期間固定は変動に比べて当初金利が高いため、金利上昇が想定より緩やかにとどまった場合は割高になります。
「とにかく変動で借りればいい」という選択が無条件に正しかった時代は、すでに終わりつつあります。自分の返済余力と金利変動への耐性を確認した上で選択してください。
4. 人口減少・2030年問題で資産価値はどう変わるか

4-1. 2030年問題とは何か
「2030年問題」とは、団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となり、医療・介護・社会保障費が急増する一方で生産年齢人口が急減するという複合的な社会課題を指します。住宅市場への影響という観点では、高齢者世帯の持ち家が市場に大量に出回る「空き家増加フェーズ」が本格化するタイミングと重なります。
「2030年まで待て」という主張の根拠の一つは、この供給増加によって郊外・地方の価格が下落する可能性です。ただし、これはエリアを限定した話であり、都市部の需要が旺盛な物件に一律に当てはまるわけではありません。
4-2. 都市部と郊外で全く異なる未来
資産価値の二極化はすでに進行中です。東京・大阪・名古屋などの主要都市の駅近物件は、2026年現在も堅調な需要を維持しています。インバウンド需要、企業集積、そして海外投資家の購入が下支え要因になっています。
一方、人口流出が続く地方都市や郊外ニュータウンでは、総務省「住宅・土地統計調査」(2023年)でも全国の空き家率が過去最高の13.8%に達したことが確認されており、資産価値の下落圧力は継続しています。「郊外の建売物件を買うと10年後に売れなくなる」という懸念は、エリアを選べば十分に現実的です。
重要なのは、「日本全体で家が余る」のではなく「場所によって全く異なる」という視点を持つことです。
4-3. マンション老朽化問題も見落とせない
築40〜50年超のマンションは修繕積立金不足が深刻で、大規模修繕や建て替え議論が各地で頻発しています。国土交通省の調査(2021年度)によれば、修繕積立金が計画額を下回っているマンションは全体の約34%に上ります。10年後に資産として成立するかどうかは、購入時点での修繕計画の確認なしには判断できません。
5. 購入後5年・10年で売却する際の税金と譲渡所得の基礎知識

5-1. 短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い
不動産を売却して得た利益(譲渡所得)にかかる税率は、所有期間5年以内か5年超かで大きく異なります。
- 短期譲渡所得(所有期間5年以内):税率39.63%(所得税30.63%+住民税9%)
- 長期譲渡所得(所有期間5年超):税率20.315%(所得税15.315%+住民税5%)
具体的に見てみましょう。3,000万円で買った物件を5年以内に3,500万円で売れた場合、500万円の利益に対して約198万円の税金がかかります。同じ条件で5年超保有していれば税額は約102万円。差額は約96万円で、これは無視できない金額です。
なお、この所有期間は売却した年の1月1日時点で判定されます。年をまたぐタイミングによって税率区分が変わることもあるため、売却時期の設定には注意が必要です。
5-2. 3,000万円特別控除の適用条件
自宅として居住していた物件を売却する場合、3,000万円特別控除が利用できます。譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度で、多くのケースで税額がゼロになります。ただし適用には条件があります。
主な要件は「住んでいた家屋またはその敷地を売ること」「売った年の前年または前々年にこの特例を受けていないこと」などです。投資用物件や別荘には適用されません。
また、住宅ローン控除と3,000万円特別控除は原則として同じ年に併用できないため、売却タイミングは慎重に選ぶ必要があります。
5-3. 5年以内に売る前提で買う危険性
「とりあえず買っておいて、状況が変わったら売ればいい」という考えは非常に危険です。購入諸費用(仲介手数料・登記費用等、物件価格の3〜7%程度)に売却諸費用と短期譲渡所得税が積み重なると、5年以内の売却では元本割れするケースがほとんどです。住宅購入は最低でも10年以上の居住を前提にしたほうが、財務的に合理的です。
6. 住宅の築年数別価格推移と10年後の資産価値シミュレーション

6-1. 戸建てとマンションで異なる価格カーブ
木造戸建ての場合、建物部分の価値は国税庁の法定耐用年数(木造22年)を基準にすると、築10年で新築時の半額程度まで下がるとも言われます。ただし土地の価値は別の話です。立地が良ければ土地値が維持されるケースも多く、「土地代でほぼ回収できる」という考え方は、エリア次第で十分成立します。
マンションは、共有部分・設備の劣化が資産価値に直結します。国土交通省の中古マンション価格動向をもとにすると、新築から10年で約15〜20%の価格下落が一般的です。ただし人気エリアや希少性の高い物件は下落幅が小さく、横ばいを維持するケースもあります。
6-2. 10年後の資産価値シミュレーション
4,000万円の新築マンション(首都圏)を購入した場合の10年後の想定価格は、エリアによって大きく分かれます。
| エリア区分 | 10年後の想定価格 | 下落率の目安 |
|---|---|---|
| 都心・人気駅徒歩圏 | 3,400〜3,800万円 | 5〜15% |
| 中規模都市の駅近 | 3,000〜3,500万円 | 12〜25% |
| 郊外・バス便エリア | 2,000〜2,800万円 | 30〜50% |
郊外バス便物件については、ローン残債と物件価値が逆転するオーバーローンのリスクが現実的にあります。購入前にエリアの人口動態と利便性を冷静に確認することが不可欠です。
6-3. 新築プレミアムと中古物件の価格差
新築物件には「新築プレミアム」と呼ばれる割増分が価格に含まれており、入居した瞬間に10〜15%程度の価格下落が起きると言われています。一方、築5〜15年の中古物件はプレミアムが剥落した後の価格帯になるため、購入コストを抑えやすく、10年後の資産価値も相対的に安定しやすい側面があります。リノベーション済み中古物件の需要が近年増えているのも、こうした背景からです。
7. 5年後・10年後を見据えた後悔しない物件選びのポイント

7-1. エリア選びで将来の資産価値が8割決まる
「Location, Location, Location」という不動産業界の格言は今も有効です。物件の仕様よりも、どこにあるかが10年後の資産価値を大きく左右します。購入前に確認しておきたい項目は以下の通りです。
- 最寄り駅の乗降客数の推移(国土交通省「都市鉄道の混雑率調査」等で確認可能)
- エリアの人口動態(市区町村の将来推計人口を国立社会保障・人口問題研究所のサイトで確認)
- 再開発計画や大型施設の誘致情報
- ハザードマップ上の浸水・土砂リスク
特にハザードマップのリスクエリアは売却時に強く嫌われる傾向があります。近年は買い手が事前確認するのが当たり前になっており、リスクエリアの物件は値下がりしやすい状況が続いています。
7-2. ライフプランとの整合性を最初に固める
物件を先に選んでライフプランを後付けしようとすると、無理が生じます。先に「10年後の自分の生活」を具体的にイメージすることが重要です。
- 子どもの人数・教育方針(公立か私立か)
- 転勤・転職の可能性
- 親の介護が必要になるタイミング
- 共働きの継続見通し
転勤の可能性が高い職種であれば、「売りやすい・貸しやすい」立地の物件を選ぶのが合理的です。逆に長期居住が確定的なら、多少郊外でも広い物件という選択肢が出てきます。
7-3. 管理・修繕の実態を必ず確認する
マンションの場合、管理組合の財務状態と修繕積立金の状況は必須確認項目です。修繕積立金が不足しているマンションでは、大規模修繕時に1戸あたり数十〜数百万円の一時金が請求されることがあります。購入前に長期修繕計画書と積立金残高を確認する習慣をつけてください。
戸建てでも、屋根・外壁・設備の修繕費用として10〜15年ごとに100〜200万円程度のコストが発生します(国土交通省「住宅のライフサイクルコスト調査」参照)。購入時の価格だけでなく、維持コストも含めたトータルで判断してください。
8. まとめ:5年後・10年後を見据えて今どう判断するか

「今買うべきか、待つべきか」に唯一の正解はありません。ただ、この記事で整理してきた数字は一つの方向性を示しています。
金利上昇局面では、購入を先送りするほど返済総額と賃貸費用の両方が膨らむ可能性があります。総コストで見れば「待つほど不利」になりやすいという現実は、シミュレーションの数字が示す通りです。
同時に、「どこを買うか」が「いつ買うか」より重要という点は繰り返し強調する価値があります。人口減少が続く中で、郊外・地方の物件に立地を軽視して飛びつくことは、10年後に大きな後悔につながるリスクがあります。
短期売却を想定した購入は、税制面から見ても合理的ではありません。住宅購入は少なくとも10年以上の保有を前提にした意思決定として捉えてください。
最終的な判断軸は「自分のライフプランを起点に、数字で確認すること」です。不安を煽るYouTubeの極論でもなく、不動産会社の営業トークでもなく、自分の収入・家族構成・転勤リスク・貯蓄額を素材にして計算すれば、答えは自然と絞られてきます。5年後・10年後の自分が「あのとき正しい判断をした」と思えるかどうか、それを基準に今の選択を考えてみてください。
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