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何十年先も見据えた、責任ある家づくり
有限会社 扇建築工房

何十年先も見据えた、責任ある家づくり

2021年9月1日

「工務店は『永続すること』により責任を果たす。建てた家を守り続ける。それが工務店のあるべき姿です。」

そう語るのは、静岡県浜松市で工務店を経営する佐藤さん。佐藤さんが代表を務める「扇建築工房」は、心地よい居場所と、たしかな性能を備え、自然と調和する住まいづくりを行っている。

今回は扇建築工房の佐藤さんに、工務店のあるべき姿とは、地場の自然素材を使うこだわりについてお伺いした。

現在、扇建築工房の代表を務められている佐藤さんは、3年前の2018年に代表に就任。そんな佐藤さんに、扇建築工房へ勤めることになった経緯について尋ねてみた。

佐藤さん(以下佐藤)工務店に勤める以前の私は、設計事務所に勤めて、家づくりに携わっていました。当時は、設計内容を図面におこし、出来上がった図面をもとに、施工会社に伝え間違いがないかをチェックする設計監理という仕事をしていました。

数年を経て実務にも小慣れた頃、「自分が考えたものに対しての責任が果たせない」ということに違和感を覚えるようになったのです。施工の責任は設計をした側でなく、工務店などの実際に施工をした側にある為です。

設計と施工が分離していることのメリットももちろんあります。

設計を担うものと施工を担うものが別々であれば、チェック機能が働き、監理者は利害関係のない第三者目線で工事がきちんと進んでいるのかをチェックすることができる。設計事務所で働いていたころは、そう教わっていましたし、それが正しいとも思っていましたが、あるときから違和感を覚え始めました。

このころから佐藤さんは、家をつくる者の「あるべき姿」について考えるようになったと語る。

オープンな事務所

佐藤:「つくる側が真摯に誠実に工事を進め、お客さまとの信頼関係が築かれている状態が前提ならば、第三者視点のチェック機能は必要ないのでは?」と思い始めたのです。

性悪説に立てば、設計と施工は分離しているほうが良いですが、つくり手がきちんとしていればその必要はない。であれば、自分たちが考えた設計を、自分たちが責任をもって形にし、守り続ける。それが本来の姿ではないかと考えました。そのような経緯から、真偽を確かめるかの如く入社したのが、現在代表を務める扇建築工房です。

扇建築工房へ入社された佐藤さんは、その後も家づくりに対する価値観が変わった部分があったそうだ。

佐藤:設計事務所に勤めていた当時は、お客さま側から発信されるさまざまな要望を、そのまま形にすることが、満足度につながると考えていました。ですが、工務店という立場で実務を重ね、知見が広がるにつれ「そうじゃない」ということに気づいたのです。

単純にお客さまの要望をそのまま具現化するのではなく、建築の専門家の視点から、住まい手にとっての最適解を提案し、お客さまを導く。扇建築工房にはそのような考え方が培われていて、私自身もその考えに同意のうえで仕事をしてきました。

ーお客さまからの要望を、ときにはお断りする。それは簡単なことではないだろう。仕事を依頼される立場にいると「要望を通さないと受注につながらないかもしれない」という意識が働くのではないだろうか。

佐藤:お客さまから言われたことに寄り添うのは、楽なことなんですよ。言われたものをそのままつくればいい話ですので。ただそれは、本当の意味ではお客さまのためとは言えません。表面的な要望に対しすべてYESを示すことは、一時の満足度は高まっても、数十年と続く生活の中で後悔が生まれてしまうかもしれないのです。

“そのとき”にならないと実感してもらえないような部分もあるかもしれませんが、プロとしての見地から提案をしていくのが、設計者のあるべき姿だと思っています。

工務店は「永続していくこと」で責任を果たす。

扇建築工房様事務所

ー前任から代表を引き継いた佐藤さん。家業でも血縁関係でもない背景にありながら代表になられた佐藤さんは、そのとき何を感じていたのだろうか。その想いを伺った。

佐藤:例えばお客さまが30代で家を建て、80代までその場で生活を続けると考えれば50年、世代を超えて利用されれば更に数十年、人が住み続けていく間、家はずっと残ります。工務店はその長い期間、建てた家に対しての責任を持ち続ける必要があると私は思っています。住宅の仕事は、そういう意味で特徴的であり、かなり長いスパンでお客さまと関わっていくことになります。しかし家を建てた工務店が、それよりも早くなくなってしまうこともザラにあるのが現代です。

永続していくことが工務店の責任、それを果たしていくためには適切に代替わりをして、存続していかなければなりません。それができなければ、いつか途絶えてしまいます。

数年前に代表就任の話があがり、その瞬間には時期尚早?とも思いましたが、改めて冷静に考え、適切な時期にバトンタッチをして存続していくことがあるべき姿だと判断して代表に就任。そして現在に至ります。

会社とは代表者のモノ、という位置づけではありません。私もそのときが来れば、先代と同じように次の後継者にバトンを渡せるような体制を作っていかなければなりません。そうして扇建築工房は、お客さまに責任を果たしていきたいと考えています。

国産材を使い、生活や地域を豊かにする。

ー扇建築工房では、天竜杉をふんだんに使った地産地消の家づくりを行っている。佐藤さんは「責任」という言葉を多く述べられているが、地元の木材を使うという点にも、その意識やこだわりが表れていた。

佐藤:地元の木材を使えば、地域のまちづくりや環境づくりにも貢献できます。浜松には、天竜美林と呼ばれる大規模な人工造林が存在しています。その人工林の大部分が、建築用材として適齢期を迎えているにも関わらず、戦後の植林時に想定した消費がされずに、山が荒れてしまっているのが現状です。

皆さんは、これから建てようとしている自分の家が、山の保全とどうかかわっているのかを考えられたことはありますか?直接的ではないために見えにくいのですが、周りまわって山の保全と、自分たちの生活、国土の安全性や経済の安定性はつながっています。

短期的な利益や、利己欲ばかりにベクトルが向け続けられれば、日本国内の山がどうなるのか、そこから日本の経済がどうなるのか、それが周りまわって自分たちの生活にどんな影響が出るのか、どういう未来が待っているのか。そのようなことを、家をつくる側の私たちは、お客さまに伝えていかなければならないと考えています。

自身の価値観を大切にしてほしい。

佐藤:家づくりをこれからされる方たちには、「自身の価値観」を大切にしてほしいと思っています。「私たちの価値基準はここです」「これを大切にしています」と、明確に答えられる人って少ないのではないでしょうか。

とくに現代、自身の価値基準ではなく、他者の考えに流される人が多すぎるような気がしてならないんです。「あの人がこんな家が良いと言ってた」「親戚からはこういわれた」「家づくりはこうあるべき」とか。でもその人たちと、実際に家を建てられる皆さんの価値基準や、幸せの定義は必ずしも一致しないですよね。

周りに振り回されずに「どんな家で、どういう暮らしをしていくことが家族にとっての幸せなのか」をじっくり考えてみてください。自身を信じて、幸せとは何か、価値とは何かを見つめ直す。そのうえで住まいを築くことが、皆さんののちの幸せにつながると思っています。

(2021/05/27 取材:平井玲奈 ポートレート写真:家づくり百貨)