―本日ご紹介するのは、神奈川県横浜市にて工務店「小泉木材」を経営される小泉さん。「小泉木材」は、家をつくるだけでなく、地元の工務店や人々に木材を届ける都市型木材屋としての役割も担っている。
「木材屋は地域のキーマンのような存在。正しい家づくりを伝えていかなければならない」。そう語る小泉さんに、「価値」ある家とはどんな家なのか、そして木材屋として大切にされている想いなどについて伺った。
「価値」ある家を届ける
小泉さん(以下小泉):私たちが大切にしている考え、それは「価値」のある家をつくること。性能がしっかりとしていて長持ちする「価値」ある家、住み心地のいい「価値」ある家など、家づくりには沢山の「価値」が存在しますよね。もちろん私たちも、それらを大切にしているのですが、ここであえて挙げている価値とは、その先にある「お金としての価値」のことを指しています。
コロナ禍を通して、自分の人生のステージや計画が、外的要因であまりにも簡単に変わってしまうということを痛感された方は多いのではないでしょうか。今までは都心に住み、電車で通勤し、帰ってくる生活が当たり前であったのに、それが覆り、好きな場所で働いて自由に生活するという考え方が浸透しつつあります。
しかし、それを実現しようとすると、今度は家が「足かせ」になってしまう。家があるゆえに縛られ、自由に働くことができない。売ろうとしても売れない。そんなジレンマを抱えた人が世の中にたくさんいます。私は、この現状を「おかしい」と思っているんです。幸せに暮らすための家なのに、その家によって不幸になっている人がいる。そんな家づくりの現状は変えていかなければなりません。
小泉木材には「10年後には、家を住み替えているかもしれない」といった感覚のお客さまも多くいらっしゃいます。横浜といった土地柄もありますが、働き方や家族の事情に合わせ、一軒家を住み替える考え方が少しずつ普及してきている印象です。であれば、適正な価格で家を売り、次のステージへ進めるよう、「どのようにお金としての価値が残る家をつくるのか」を、初めから一緒に考えていく。
途中経過も最後もすべて見守っていく。それが私たちのやるべきことだと考えています。
―マンションには「住み替え」の概念があるにもかかわらず、一軒家には「住み続ける」という概念しか持っていない方が多い印象だ。「一度建てたからには住み続けなければならない」「できれば子供にも近くに住んでほしい」そう無意識に、自分そして子供の人生の選択肢を狭めてしまってるのではないだろうか。
多くの人に受け入れられ、住み継がれる家を
小泉:私たちは、家を建てた家族以外の人にも住み継いでもらえるように、良い意味で”普通”な間取りを提案しております。建てた家族だけにピッタリの家をつくってしまうと、他の人たちにとっては住みにくくなってしまうこともあるんです。
そうすると、せっかく高断熱・高気密の良い家だったとしても、価値が下がってしまいますし、結局壊されてしまうことにもなりかねません。
素材を選ぶにあたってのこだわりは「30年ごとにメンテナンスができる素材をえらぶ」こと。例えば、床は10年ごと、キッチンは20年ごと、外壁は30年ごと、のようにすべて耐久年数がバラバラな素材で家づくりをすると、頻繁にメンテナンスをしなければならなくなります。
ですので私たちは、「30年」の基準を設けてメンテナンス計画を立て、30年間しっかりと維持できる素材を選ぶようにしていますね。そうすると、おのずとフローリングは無垢材が良いよね、外壁はガルバリウム鋼版が良いよね、となるわけです。
「新建材はダメで、無垢はいい」といった考え方ではなく、時間軸で評価をするようにしています。逆に、お客さまから「この素材がいい」とのご指定がある場合は、素材の耐久年数を評価し、どうしますか?と相談させていただいています。
そして「自分たちの会社が無くなってしまったら」ということまで想定し、「維持管理計画書」の作成も行っているんです。これには30年ごとのメンテナンス計画が記載されており、「私たちがいなくなっても、この手順にそってメンテナンスをしてください」と、お客さまが見て、分かるように記したものです。
弊社で開催するセミナーなどで、お客さまに対して「工務店で家を建てるにあたり倒産への不安はありますか?」と尋ねると、ほぼ100%の方が手を挙げられます。「工務店が無くなったら家はどうなってしまうの?」「ほかの工務店でメンテナンスしてもらえるの?」そんな不安を多くの方が抱えています。
一度家を建てるからには、建てた後のこと、そして自分たちがいなくなった先の未来まで見据え、お客さまに迷惑が掛からないように家をつくることが家守りとしての工務店の最後の責務。「倒産しても、家は大丈夫」そうはっきりと伝え、責任を持って家づくりをすべきだと思っています。
子供たちの未来を創る
―小泉木材は「豊かさと未来を 私たちは家から そして子供たちへ」、という言葉を掲げ、家づくりを行っている。この言葉に込められた小泉さんの想いをお伺いした。
小泉:私たちは、子供たちの未来のためにも、一代ごとに繰り返される家づくりを続けるべきではないと考えています。今の日本の現状を考えると、住宅インフラを整えなければ私たちの子供の世代は、私たちよりも経済的に豊かになれない可能性があると思っているんです。
家を一棟建てるのに、私たちでさえ四苦八苦しているのに、子供たちにも30年後同じ想いをさせたくはありません。「住み継げる家づくり」を日本各地で行えば、子供たちがもっと豊かになる、幸せになる。そんな未来に繋がるのではないでしょうか。「豊かさと未来を 私たちは家から そして子供たちへ」。
私、そしてスタッフも含め、家づくりにおいての判断基準はこの言葉。会社にとってデメリットになることでも、子供たちの未来にとって良いことであれば、やってもいい。そんな意思を表しています。30年後、60年後に、子供たちから「あのとき変えてくれて本当によかったね」って言ってもらいながら人生を終えたいですね。
―地域の木材屋として、正しい知識を伝達していく――。そんな責任感の裏には、小泉さん自身の辛い経験があった。
小泉:わたしには、15年ほど前に自分自身の家づくりに失敗してしまった苦い経験があります。住宅性能においてよくない家を建ててしまったがために、自分たちの子供に辛い想いをさせてしまったのです。長いあいだ、凄く後悔しましたし苦しみました。自分と同じような経験や想いを、他の人にさせてはいけない。
小泉木材では家づくりを行っていますが、同時に工務店さんに木材を届ける木材屋でもあります。江戸時代からの歴史的背景を遡っていくと、木材屋は地域のキーマンのような存在で、とても重要な役割を担ってました。
ですが、いつからか単なる物売りになってしまっていて…。自身の家づくりの失敗を振り返ってみて、かつての私のような人たちに正しい情報を伝えていく、一緒に考えていくことを、木材屋としてやっていかなければならないと改めて気づかされました。
私が家を建てたときに「こんなつくり方をすると失敗するよ」「こういう問題があるよ」と第三者目線でアドバイスしてくれる人が、少なくとも私の周りにはいなかったので、それを工務店さんにしていくことが私の使命でもあると思っています。そして、木材屋として工務店さんに正しい情報を第三者視点で伝えていくには、自分自身が常に最前線に身を置いて家をつくっていかなければなりません。
それが、私が今回「家づくり百貨」に参加した理由なのです。
(2021/09/24 取材:平井玲奈 写真:家づくり百貨)