短パン半そでの楽しい暮らしを実現するぜ!
【たぶん日刊】
いつもありがとうございます、夏見です。
本日もメルマガご愛読ありがとうございます!
築10年の住宅を買ったのは、まだ若かった頃だ。
それから30年。気づけば家も、私たちも、
ちゃんと年を重ねていた。
家族は、私と妻と、息子が二人。犬のジョイ。
朝は誰かが走り、夜は誰かが笑い、
リビングはいつも「人の気配」で満ちていた。
今年、その息子たちがそろって一人立ちした。
玄関の靴が減り、冷蔵庫の減りも遅くなった。
そして何より――家が、急に静かになった。
寂しい。確かに寂しい。
でも、それ以上に、家が寒かった。
人がたくさんいた頃は気づかなかった。
壁の中をすり抜ける冷気。
窓際に溜まるひんやりした空気。
床の冷たさは、子どものドタバタに
紛れて見過ごされていたのだろう。
「こんなに、寒かったっけ……」
妻は言いながら、膝掛けを引き寄せた。
ジョイも、いつもより丸くなる時間が
増えた気がする。
そんなある日、
夫婦でふらりと入った喫茶店が
妙に心地よかった。
暖房が強いわけじゃないのに、
空気がやわらかい。
そして店の隅に、
つやつやした葉の観葉植物たちがいた。
妻が足を止めた。
「きれい。なんか、息してるみたい」
その帰り道、私たちは小さな植物を
いくつか迎え入れた。
名前も分からないまま、
「この子」「こっちの子」と
呼びながら。
家に緑が増えると、静けさが少し薄まった。
窓辺に立つ葉の影が揺れるだけで、
部屋に“会話”が生まれる気がした。
ところが。
「……あれ?この子、元気なくない?」
一番元気そうに見えた子が、
ある朝、ぐったりしていた。
水もあげた。暖かくもした。日も当てた。
それでも、葉は色を失い、
ぽろぽろ落ちていった。
妻は落ち込んだ。
「私、ちゃんとできてないのかな……」
私は言った。
「いや、これは…周りのほうが
何か足りてないのかもしれない」
植物が枯れたことが、私たちには妙に効いた。
子どもが巣立った寂しさとは違う、
“暮らしの芯”を見直す合図みたいに感じた。
「室内の環境、整えてみたいね」
妻が静かに言った。
その言葉で、私の中でも何かが決まった。
知人に、観葉植物を見事に
育てている工務店の社長がいる。
趣味でやってる、というレベルじゃない。
現場の詰所にすら緑がある人だ。
相談すると、社長は笑った。
「枯れた?それ、
植物の問題じゃなくて家の問題かもね」
まず言われたのは、断熱。
次に、空調の考え方。
そして、土づくりと薬
ここで私たちは目を丸くした。
「え、植物のために、家を直すんですか?」
社長は、当たり前みたいに言った。
「うん。だけどね、
植物が元気になる条件って、
人間が元気になる条件と
だいたい同じなんだよ」
温度差が少ないこと。
湿度が整っていること。
空気がよどまないこと。
光がちゃんと届くこと。
それは、植物のためであり、
私たちの体のためでもあった。
正直、まさかだ。
家を直す理由が「植物のため」
になるなんて、思ってもいなかった。
でも、妙に納得できた。
家は、家族が多いときの“勢い”で
持ちこたえていただけだったのかもしれない。
人が減った今、家の本来の性能が
むき出しになった――そんな感じだった。
断熱を見直し、空調の流れを整え、土も変えた。
ほんの少しの工夫が、じわじわ効いていく。
朝、起きたときの冷えが違う。
窓際の「ひんやりゾーン」が消えていく。
ジョイが丸くなる時間が減る。
妻の肩こりが「そういえば…」と軽くなる。
そして植物たちが、明らかに変わった。
葉が立ち上がり、つやが戻り、増え始めた。
増え始めた、というより――増えすぎた。
気づけば室内は緑だらけ。
棚の上、窓辺、階段の踊り場。
リビングには小さな森ができていた。
妻は嬉々として世話をする。
霧吹き片手に、葉を撫でながら話しかける。
「今日は機嫌いいね」
「この子、伸びたよ」
「ジョイ、踏まないでね~」
私は笑って言う。
「話し相手が増えすぎて、困るんじゃない?」
妻が真顔で返す。
「困るわ。みんな主張が強いもの」
その言い方が可笑しくて、
二人で大笑いした。
笑い声が壁に跳ね返って、
家の中に“あたたかい音”が残った。
子どもがいない家は、確かに静かだ。
でも静かだからこそ、気づけることがある。
家の傷み。
空気の冷たさ。
そして、心地よさの作り方。
植物のために始めたことが、
いつの間にか私たちの暮らしを整えていた。
家があたたかくなると、
不思議と気持ちも軽くなる。
息子たちが帰ってくる日がある。
そのとき、きっとこう言うだろう。
「なんかこの家、
前より居心地よくなってない?」
私はたぶん、少しだけ得意げに答える。
「植物が増えたんだよ」って。
そして心の中で付け足す。
――植物が元気になる条件は、
人間にもいい条件だった。
それを教えてくれたのは、
静けさと、枯れた一枚の葉だったんだ。
https://kknatsumi.biz/l/m/XzxPRbdrvBBhDj
では!また明日!
続きを読むには会員登録が必要です。