―本日ご紹介するのは、埼玉県上尾市にて「有限会社 佐藤工務店 一級建築士事務所」を経営されている佐藤さんご夫婦。一級建築士事務所を併設している佐藤工務店では、旦那さまの喜夫さんが現場監理を担当、奥さまの春代さんも、一級建築士で佐藤工務店の設計室長として設計を担当している。
お二人は大学の同級生で、同じ年に一級建築士試験を受験し、その年にご結婚。ご夫婦二人と若いスタッフ達、そしてベテラン大工さん、信頼おける協力業社さん達と一緒に、こだわりの家づくりを手掛けられている。
「見えないところこそ大切にする」。そう語る佐藤さんご夫婦に、家づくりへの想いや佐藤工務店のストーリーについてお伺いした。
木造住宅の魅力に気づく
―喜夫さんは、お父さまが大工だったということもあり、大学では建築学を専攻し、その後ゼネコンに入社、主にビル·工場·マンションなどの現場施工管理を担当し、5年間勤めたのちに、父の経営する有限会社 佐藤工務店へ入社された。
佐藤喜夫さん(以下喜夫さん):僕が佐藤工務店に入社したばかりの頃は、バブル真っ最中。当時はゼネコンの下請けもしていましたので、鉄筋コンクリートでも鉄骨造、木造でも店舗でも工場でも、「来るもの拒まずで、なんでも建てるのが工務店だ」というような認識でした。
そんな考えが変わったのはバブルがはじけたあとのこと。大きな建物の仕事が少なくなり、木造建築を専門にやろうということになりました。これが、やってみると奥が深かった。
ダイレクトにお客さまと関われる、コミュニケーションがとれるという点が魅力的でしたね。生活感のないビルや工場と違って、住宅はお客さまにとって一世一代の買い物ですから、みなさん本当に一生懸命なわけです。
それに見合った対価として、「お客様の財産になる様な建物をつくりたい!」という想いや意識が強くなりました。そこに大きなやりがいも生まれましたし、やればやるほど面白くて、鉄筋コンクリート造や鉄骨造ビルなどはお断りして、こっちに力を入れようということになりました。
長く愛される家をつくる
喜夫さん:僕たちにとっての、いい住まいとは「長く愛される家」、つまり壊されない家です。次の世代になっても「この家、いい家だから壊すのもったいないね、住み続けたいね」と思ってもらえる。
そんな家をつくり続けたいと思っています。スクラップアンドビルドが盛んだった時期は、断熱の技術もなく、夏は暑くて冬が寒くて当たり前の時代。子どもの人数分、部屋をたくさんつくって、とにかく大きくつくって…等々。
そうすると、いずれ使いづらくなってしまい、住まう人が耐えられなくなってしまうんです。そんな家は30年40年ほどで、建て替えられてしまいます。そうならないためにも、確かな技術をもって耐震性と断熱気密がきちんと施されている家、生涯に渡って暮らしやすい家を、僕たちがつくっていきたいと思っています。
2011年3月に完成した、弊社コンセプトハウス「わたしのおうち」は国土交通省が国産木材·地域木材の振興を目的とし「工務店さん展示場を造る気あれば補助金差し上げますよ!」という企画でした。
主に埼玉県産木材を使い、長期優良住宅の認定を受け、100年愛される家をコンセプトに応募。
環境負荷、長期にわたるエネルギーコストとメンテナンスコスト、世代交代によるフレキシブルな間取り変更を考え抜いたコンセプトハウスを、小さな地域工務店が造ることができ、お客さまへ現物を見て体感して頂き、新しい提案を行うことが出来るようになりました。
―佐藤工務店のパンフレット絵本「わたしのおうち」。この絵本には、変わりゆく生活スタイルに合わせて、変化していく家の様子が描かれている。佐藤さんご夫婦の「長く愛される家を建てたい」という想いが、たくさん詰まっていた。
春代さん(以下春代さん):人は歳をとり、いつかは死んでゆくものです。家もそんな人間と同様で、時と共に変わってゆくし、暮らし方も変わってくる。
そして、家は人以上にこの世に残り続けるもの。
いい家は、きちんとメンテナンスすれば100年以上は持ちます。
ですが、建物自体は良いモノであっても、住み継がれなければ途中で使われなくなってしまうこともあります。長く愛され住んでもらうためにも、家がどんなふうに住み替えられ、どんなふうに歳をとってゆくのか、「こんな風に暮らしたらいいですよ、住み替えたらいいですよ」と伝えたい。そんな想いで「わたしのおうち」を考案しました。
見えないところこそ大切に
―佐藤工務店では施工担当が喜夫さん、設計担当が春代さん。役割分担をしながら家づくりを行う上で、それぞれが大切にされていることをお伺いした。
喜夫さん:施工をするにあたっては、見えないところにこそ力を入れています。見えないところに良いモノを使い、徹底した品質管理のもと家をつくる。これがとても大切。
耐震性能や断熱気密等、目に見えない性能は、あとから変えるのが難しい部分です。長い期間その家に住むことになるわけですから、一度性能の悪い家を建ててしまうと、何十年も我慢し続けることになってしまいます。
安いからと言って、見た目だけはピカピカ、けれども断熱がスカスカで耐震性も高くない、そんな家をつくってはいけません。
確かな性能をお客さまに届けるために、弊社では性能検査する測定器なども自社で揃えるようにしています。
しっかりと責任を持って自社で性能を確認し、足りなければ修正する、そして完璧な状態にしてお客さまにお渡しする。妻の描いた設計がいくら良くても、性能を担保できなければ絵に描いた餅になってしまいますから、現場の品質管理は徹底しています。
春代さん:家の設計をするうえで心がけていることは、日常生活を送るにあたり、動線にストレスが無いように設計することです。より動きやすい空間にすること、時代に合った使いやすい設計にすることですね。
各家庭によって個性はバラバラですが、どんな生活がよりよい生活なのか、本当に必要なものは何なのか、どうすればもっと動きやすくなるのか、ということを常に考えながら設計しています。
住宅総合展示場などに行き、広い玄関に入ると「わぁ、素敵!」となるかもしれませんが、そんな玄関が普通の家庭には必要なのかと言われると、そうでない場合がほとんど。
それよりも収納や洗濯スペース、回遊性を良くしたり、必要なところに大き過ぎない収納を設ける事が大切だと考えています。
また現代は、洗濯物は乾燥機を使うので外物干しはいらないとか、掃除もルンバを走らせるとか、10年前に比べて大きく家事の仕方が変わってきました。
昔は掃除機のコンセントをリビングの真ん中に設けて、部屋全体に掃除機を行きわたらせられるようになど設計していましたが、今はルンバが走りやすいような充電場所を設置する等、家事の仕方が変わってきていると感じます。
設計は私だけでなく、若いスタッフとも一緒にしますので、アイディアや考え方も取り入れ、時代と共に変えなければいけないところは柔軟に変えています。そうして、ストレスの少ない癒やされる家造りを続けていきたいですね。
未来を見据えた家づくりを
春代さん:これから家を建てられる皆さんには、お金のかけどころを熟考していただきたいと思っています。「広い土地に大きな家を建てて、最新のものを取り入れて…」と、すべてをベストにしようとすると、やはりかなりの金額が掛かってしまうんです。
「いい家を建てたのに、家にお金が掛かりすぎて生活がカツカツ…」「なんだか生活が楽しくない…」。幸せになるために家を建てたのに、こう思ってしまうのは悲しいこと。そうならないためにも、無理のないバランスのいい予算を考えることからスタートしてみてください。
また、新築で家を建てるとなると、やはり多くの方が「家具も家電も設備も全部最新のモノがいい!」と思ってしまうんです。
だけれども、それらの寿命は長くはありません。家電であれば10年前後、お風呂やキッチンは30年前後で取り換えが必要になってきます。少し夢がないように聞こえてしまうかもしれませんが、取り換えが効くものや、性能自体に大きな変化がないものを、全てフルスペックにする必要はないと私は考えています。
取り換えができない「家」本体にしっかりとお金をかけ、いずれ壊れるものからコストカットをしていく。この考えがとても大切ですね。
喜夫さん:「家づくりは“今”じゃない」、これが僕の伝えたいことです。
今は家づくりの情報を、どこでも簡単に手に入れられる時代になりました。みなさんの家づくりに関する知識が増えるのは良いことなのですが、それにより流行に左右されすぎている人が増えたようにも感じます。
例えば、お客さまが3人いたとすると、みんな同じキッチンを使いたいとか、照明が使いたいとか、そういった奇妙な現象が起きているんです。流行は“今”だけ。
家づくりは、もっと先のことを見据えなければなりません。子どもがいるときのこと、子どもが巣立ち夫婦二人になったときのこと、次世代に住み継がれていくときのこと。そこまで考えて、30年後、60年後の生涯に渡って後悔のない、暮らしやすい家をつくることができるのです。
(2021/08/23 取材:平井玲奈 写真:家づくり百貨)