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日本の住宅を足元から変えて、そして支えていく
日本ボレイト

日本の住宅を足元から変えて、そして支えていく

2022年8月26日

―木造建築の劣化を加速させる最大の原因のひとつであるシロアリ。日本におけるメジャーなシロアリ防除方法、合成殺虫剤を使用した方法だ。そんな中、合成殺虫剤を使用せずに、人体に安全なホウ酸を使用してシロアリ対策を行っている会社がある。日本ボレイト株式会社だ。同社はなぜ、あえて日本でメジャーではない「ホウ酸」を使用したシロアリ対策を行っているのだろうか。代表の淺葉健介さんに、そのこだわりと想いを伺った。

淺葉さん(以下浅葉):ホウ酸処理のメリットは大きく分けて2つ挙げられます。一つ目は、安全性が高いという点です。弊社がシロアリ対策で使用している「ホウ酸」は、アメリカのカリフォルニアで採掘されるホウ酸塩鉱物という石を精製してつくられたもの。

無機鉱物由来のため、空気中に溶け込むことはありません。気密性の高い住宅の床下に処理をしたとしても、その成分が空気中に溶け込むことはないため、住まい手さんに全く害を及ぼさないのです。近年、日本でも高気密・高断熱の家が注目されています。

気密性を上げ、断熱性も上げる性能の高い家が当たり前に建てられていく中で、空気中に溶け込まないホウ酸を用いたシロアリ対策がベストだと私は考えています。

2つ目のメリットは、効果が持続するという点です。ホウ酸は無機鉱物なので、分解されることがありません。

例えば、海の水が数億年経ったら真水になるということは今の科学では考えられていませんよね。ホウ酸もそれと同様で、一度木材に処理してしまえば、成分が飛んだり分解されたりすることはなく、そこに存在し続けます。

ある木材に1キロのホウ酸を処理したとすると、100年経っても1キロ残り続けるのです。新築を建てる際にホウ酸処理をしてしまえば、その後定期的に追加で処理をする必要はありません。コストパフォーマンスにも優れていると言えるでしょう。

―ホウ酸処理には多くのメリットがある一方、合成殺虫剤には多くのデメリットや健康に害を及ぼす可能性があると淺葉氏は警鐘を鳴らす。

淺葉:ホウ酸の良いところは安全性と持続性ということを述べてきましたが、合成殺虫剤はその対極に位置する成分だと言っても過言ではありません。

まず、合成殺虫剤に含まれている有効成分は農薬登録されているモノがほとんどです。畑で使用すれば「農薬」と呼ばれ、建築現場で使用すれば「シロアリ防除剤」と呼ばれる、人体に悪影響を及ぼしかねない成分が含まれています。

とくに体の小さなお子さんや、男性よりも感受性が強いと言われている女性はリスクが高く、シロアリ防除に使用される合成殺虫剤が原因で、化学物質過敏症になってしまうこともあると言われています。

また、シロアリ防除に使用される合成殺虫剤のうち、70~80%は「ネオニコチノイド系」と呼ばれる物質です。この成分は、世界中で農薬として使用されていた成分なのですが、ミツバチの大量死の原因だとされ、EUでは2018年に3種のネオニコチノイド系農薬の屋外使用が禁止になりました。

それを受けフランスではネオニコチノイド系農薬の使用が全面禁止になるなど、世界各国でネオニコチノイド系農薬の使用が規制される流れになっています。

しかし日本はどうでしょう。

農薬として、シロアリ防除剤として、ネオニコチノイド系が主流で使われていて、世界各国でネオニコチノイド系の使用が規制されている中、日本は「ネオニコチノイド天国」だと揶揄されています。

世界に目を向けてみると、少なくとも私が知る限りでは、虫のいない木材に対して予防的に合成殺虫剤を使っている国はありません。ホウ酸や銅を使用した対策が一般的なのです。

―合成殺虫剤は、人体に悪影響を及ぼしかねない可能性があるだけでなく、持続性の側面でもデメリットがあるそうだ。

淺葉:前半で、ホウ酸処理には高い持続性があると申しましたが、合成殺虫剤の効果には期限があります。農薬と同じようにイメージしていただけたらと思います。

農薬は撒いたそのときは高い殺虫効果を発揮しますが、農作物への残留を防ぐために数日~数週間後には効果がなくなってしまいます。そのため、農家さんは定期的に農薬を撒く作業を行っていますよね。

それと同様で、合成殺虫剤は一度処理して終わりではなく、定期的にメンテナンスする必要があるのです。今の日本で一般的に使用されている合成殺虫剤は5年ほどしか持たないと言われています。

そして、ここに落とし穴があります。新築時に柱などの構造材にシロアリ予防処理をする際は、壁に断熱材や仕上げ材などが貼られる前の段階で行われます。

その後、断熱材や仕上げ材、石膏ボードが貼られてしまった後は、その部分の柱に触れることはできません。では、5年おきの定期メンテナンスでは、どのように合成殺虫剤を処理しなおすのでしょうか。

お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、壁の中の柱などに再処理することは事実上できません。既に出来上がっている家に対しての再処理は、床下に潜り、処理できる木材に対して処理をしていくことしかできないのです。昨今の日本の住宅は断熱性能が高くなっている分、断熱層が複雑になっているので、中まで開けてすべての柱に対して合成殺虫剤を処理するのは不可能です。

であれば、新築時に一度処理すれば、その後は効果が持続するホウ酸処理の方が理にかなっているのではないでしょうか。

―合成殺虫剤と比較し、非常に大きなメリットのあるホウ酸処理。今から約20年前、淺葉氏自身も初めてホウ酸処理の存在を知った際は衝撃を受けたと語る。

淺葉:私がはじめてホウ酸処理に出会ったのは、今から約20年前のことです。当時私はとある建材メーカーに勤めていたのですが、アメリカ大使館でホウ酸のセミナーがあるということを知り、訪れてみることにしました。

当時の日本では、まだホウ酸が業界団体から認定されていませんでした。そんな現状を変え、合成殺虫剤と同様に使えるようにと、アメリカ大使館とアメリカの素材メーカーが行政に働きかけを行っていたんです。

はじめてそこでホウ酸の素晴らしさと活動内容を知り、私は非常に感銘を受けました。

世界ではホウ酸処理が一般的であるということ。ホウ酸処理は安全かつ効果が持続するということ。そして今日本で使われている合成殺虫剤は身体に害を及ぼす可能性があるのと、効果が持続しないということ。

この3つの事実を知り、「私の一生の仕事はホウ酸処理を日本に広めることだ!」と強く思ったのです。

思い立ったら即行動で、セミナーで通訳を務めていた理学博士でもあり、日本のホウ酸処理界の父でもある荒川民雄氏(現・日本ボレイト会長)にアポイントを取り、弟子入りしました。

そこから荒川氏のもとでホウ酸について学ばせていただき、ついに2011年、ホウ酸が日本木材協会保存協会に認定され、合成殺虫剤と同じ土俵に上がることができました。

―安全性も高く、持続性もあるホウ酸処理だが、まだまだ日本国内での認知度は低い。現在日本で実施されているシロアリ対策のうち、ホウ酸処理の割合はたったの3%。残りの90%以上は合成殺虫剤だ。シロアリ防除業者がホウ酸処理を取り入れない理由には、彼らのビジネスモデルが関係しているようだ。

淺葉:「こんな画期的なシロアリ対策は他にはない」「認定されればすぐに日本中に広まるはずだ!」そんな期待を抱いていましたが、予想と反し、簡単にホウ酸処理が普及することはありませんでした。

合成殺虫剤でシロアリ防除をしている業者さんにホウ酸処理を提案しても、ほとんどといっても過言ではないほどに聞き入れてもらえませんでした。

合成殺虫剤を使用しているシロアリ防除業者さんは、5年に1回の再処理がなければ経営を成り立たせられないビジネスモデルをしているところが非常に多いんです。

新築時、建築会社の下請けとしてシロアリ予防工事を請け負いますが、その際、シロアリ防除業者さんは、儲けを出そうとは考えず、格安で請ける。5年後に再処理をするための「名簿集め」なんですね。

先ほどお伝えした通り、合成殺虫剤の効果は5年ほどで切れてしまうため、効果を持続させたい場合は再処理をする必要があります。この再処理の際に、住まい手は往々にして数十万円という高額な料金を提示されるのです。

5年おきに数十万円の金額をかけ、健康リスクのある薬剤で、“床下の見えている木材だけ“を処理するシロアリ対策を皆さんはどう思われますか?こころから「いいもの」だと思いますか?私はそうは思えませんでした。

私たちが行っているホウ酸処理は、一度木材に処理してしまえば、再処理をする必要がないため、お客様から必要以上にメンテナンス等でお金をいただくことはありません。

そのため「儲け」のことだけを考えると、合成殺虫剤と比べて利益率は低いのかもしれません。「本当に意味のあるものを世の中の人たちに使ってほしい」。

この想いがあるからこそ、私たちはホウ酸処理を手掛け、世に広めることに尽力しているのです。

―「ホウ酸処理を日本に広める」この目標を達成するため、そして顧客に満足してもらうために、欠かせないことがあると淺葉氏は述べる。

淺葉:私たちの社是は「謙虚に、誠実に」。何かに取り組むときや判断を迫られるときは、謙虚に誠実に対応することを指針にしています。

そしてもう一つの大切にしていることは「私たちの会社は何のために存在しているのか」という目的を忘れないことですね。

この日本国内に正しいホウ酸処理を広め、国民の健康と財産を守り、環境に貢献するという目的を達成するために、私たちの会社があるのだということを常に意識しています。

正しいホウ酸処理が広まれば、健康被害に遭う人を減らせますし、再処理にかかる費用を減らすことができます。シロアリ被害に遭う方を減らせることができれば、家を長持ちさせることができるためCO₂の排出量を抑えることにも貢献できると考えています。

「“正しい”ホウ酸処理」という部分にも、譲れないこだわりがあります。ホウ酸は空気中に溶け込むことはありませんが、水溶性なので水に濡れると流されてしまう恐れがあります。

つまり、雨に濡れてしまうと効果が薄まってしまう可能性があるのです。そのためホウ酸処理をする際には、徹底した雨対策が欠かせません。

弊社が「責任施工」にこだわる理由はここにあります。

もし弊社が単純に儲かりたいだけなのであれば、ホウ酸の商材を工務店さんに売るだけ売り、施工はお任せすれば済む話です。しかし、それでは「“正しい”ホウ酸処理」が行われない可能性があります。

「ホウ酸処理は効果がない」と誤解されかねませんし、何よりお客様のためになりません。確実な効果を発揮させるために、施工をお願いしている代理店さんには、非常にストイックなレクチャーをしております。

報告書管理システムも整備しており、完璧な状態に仕上げられているかを弊社が責任を持って確認しています。代理店さんからは「勘弁してくれ、笑」と言われるほど厳しいチェックを行っておりますが、これもすべて「“正しい”ホウ酸処理」を施すためなのです。

それが私たちの「謙虚に、誠実に」だと考えています。

―そして淺葉氏は、最後に今後の目標と展望を語ってくれた。

淺葉:100人のエンドユーザーの方々に「ホウ酸処理と合成殺虫剤処理のどちらが良いですか?」と尋ねた場合、きちんとここまでの説明を行い、ホウ酸処理の良さについて理解されている状態であれば、ほとんどの方がホウ酸処理を選んでくださるでしょう。

しかし、まだまだ日本ではホウ酸処理の認知度が高くありません。そのため、100人中たった3名ほどしかホウ酸処理を選んでいないという現状があります。

このギャップを埋めたい。

これまではホウ酸処理をエンドユーザーである住まい手の方に認知してもらおうとしても、ホームページぐらいしか手段がありませんでした。

しかし今はどうでしょう。新型コロナウイルスの影響もあり、YouTubeを閲覧される方が非常に増えました。

私はこれを一つのチャンスだと捉えています。ホームページの文字だけでは伝えきれないホウ酸処理の良さを、YouTubeなどの映像媒体を通し、身体に悪影響がなく再処理の必要もないホウ酸処理を、さらに世の中に広めていきたいですね。より多くの方にホウ酸処理を取り入れていただけるよう、尽力してまいります。

(2022/05/23 取材:平井玲奈 写真:家づくり百貨)