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「体感」に重き、暑さ・寒さから逃げられる住まいを
株式会社 夏見工務店

「体感」に重き、暑さ・寒さから逃げられる住まいを

2021年8月31日

―本日紹介するのは、滋賀県で工務店を経営される夏見さん。夏見さんの経営される「夏見工務店」では、滋賀県の気候風土に合った家を科学で検証し、寒さ・暑さを感じにくい家づくりをしている。

また、夏見工務店は「パッシブハウス」と呼ばれる、世界基準なエコな家を提案。このパッシブハウスと呼べるのは、一定のエネルギー消費基準を満たし、認定を受けた建てものだけである。

今回は、そんな省エネで快適な家づくりをされている夏見さんに、ご自身の建築観に影響を受けたエピソードや、家づくりにおいて大切にされていることなどについてお話を伺った。

大切なのは数値だけではなく「体感」

―夏見さんは家づくりにおいて、「体感」をとても重視されているそうだ。なぜそのような考えを持つようになったのか、現在の建築観に至ったきっかけについて尋ねてみた。

夏見社長の自宅(HPから引用)

夏見さん(以下夏見):僕は、父が工務店を経営していたということもあり、専門学校卒業後に他社の設計事務所や工務店で数年間つとめたあと、家を継ぐために家業へ戻ってきました。そして、帰ってきてから5年ほど経った頃、高校の同級生から「家を建ててほしい」という依頼が来たのです。内容は、その同級生の設計をもとに、弟さんの家を建てるというものでした。そして今度はその1年後、小中学校時代の友人から「家を建ててほしい」というもう一つの依頼が来たのです。

どちらの依頼も、同じ滋賀県内で家を建てるという内容だったのですが、高校時代の友人から頼まれた家は滋賀県の北部、小中学校時代の友人に依頼されて家は滋賀県の南部に建てるというものでした。


―滋賀県は同じ県内であっても、北と南で気候がかなり異なる。北部は日本海側の福井県に近いため寒く、南部は太平洋側の和歌山県に近いため暖かい気候なのだそうだ。

夏見:「北部はきっと寒いのだろうな。暖かい家をつくってあげたいな。」そう思い、そのときはじめて断熱気密についてしっかりと調べました。当時の日本は「次世代省エネルギー基準」というものを打ち出しており、これぐらい断熱してください!省エネしてください!という目標基準が設定されていました。滋賀県は基準の上では、ひとくくりでしたが、実際は北部と南部でかなり気候が違っていました。「国が決めたことだから」そう思い、当時の僕はこの基準に則り、同じ仕様で2つの家を建てました。

ただ全く同じというわけではなく、北部のお家の方は「素材は任せます」と言われていたので、できる限りいいものをつくりたいと思い、無垢の素材を使い、木の温かみを取り入れたお家に。そうすると当然、木のぬくもりがプラスされた北部のお家は、住み心地が良く、温かみのある家になると思っていました。しかし結果は意外なもので、北部に建てたお家からは「暖かいよ!」という言葉を聞くことができなかったのです。

そのときに「あれ?国が定めた基準に則ったのに、どうしてこんなにも北と南で意見が違うんだ?」「北部のほうが無垢の木を取り入れたのに?」と疑問に思いました。国の定めた基準通りにやっても、人間の体感温度は一緒にはならない。そのとき、そう気づいたのです。これからは基準や数値よりも、「体感」に重きを置き、「寒い」や「熱い」から逃げられるような家づくりをしていきたいと思いました。

―その出来事から12年以上。夏見さんは「体感」について、たくさんの勉強を重ねた。そしてその体感には、ある決定的な「ゾーン」があることに気づいたそうだ。

夏見:体感というものは、人間がもっているセンサーのようなもの。ここからは「明らかに寒い!」「明らかに暑い!」と、人間が感じるゾーンがあるんです。その中間のゾーンにくるよう家を建てれば、快適に過ごすことができる。「それ以上は寒いから無理」「それ以上は暑いから無理」というゾーンを避けた間の家こそが、人間の体感的に快適な家なんです。僕たちの家づくりはすべてその「ゾーン」を守って、いろんな寒さや暑さから逃げられるようにつくっています。

これからはさらにその先の「豊かさ」、例えば家の色合いや質感、窓から見える風景など、「素敵だな」と感じられる部分を、さらに充実させていきたいと思っています。

靴と同じ。家はなじんでいくもの

―今や夏見工務店は、「滋賀県で断熱と言えば夏見工務店」となるほど、断熱を得意とされているのだが、断熱を取り入れ始めた当初は試行錯誤の毎日だったそう。そのなかで、今でも忘れられない一人のお客さまがいると夏見さんは語る。

夏見:僕が一番はじめに断熱を学んだのはドイツでした。欧州は、日本より断熱が非常に進んでいて、日本の3倍ぐらいの量の断熱材が入った家が普通だったんです。

そんな中で「いやぁ夏見さん、これが普通ですよ。日本で売ってる建物は断熱材が全く足りていない」なんて言われたもんだから、それに完全に感化されてしまったんですね(笑)そしていきなり、断熱材を大量に入れた家をドーンとつくっちゃったんです。

そうすると大変だったのがお客さん。断熱材が何倍も入っているので、どう調節したら暖かくなるのか、冷えるのかという方法が分からないんです。僕もそのころは、断熱を始めたばかりだったので明確には分かりませんでした。

そして、そのお客さんからは3年間怒られましたね。その3年間は、お客さんのお家に通い続け、あれをこうしてほしい、これはこうしてほしいと試行錯誤しながら改良し、「本当にごめんなさい」と謝り続けました。

―3年間お客さまのもとに通い続けるなか、ある日突然、夏見さんはお客さまから、今までとは全く違った言葉をいただくことになる。

夏見:「家が快適になってきました!」という言葉をいただくようになったんです。そのとき、とても勉強になったのですが、高断熱・高気密のお家は、3年ぐらいの時間をかけてなじんでいくものだということが分かりました。

例えるなら、靴と似ています。

おろしたての靴は、履き心地が悪いですし、靴ズレもします。初めのころは「なんだこの靴」ってなりますが、履き続けることで足になじんでいき、いつのまにか「他の靴は履けない」という状態になりますよね。それと同じことなのです。

住んでいるうちに、家も人もいい方向にどんどんなじんでいき、いつのまにか住みやすくなる。建てものに残る水分で湿気のある空間も、ほどよく乾燥して快適になり、木もいいところで落ち着いてくる。鳴っていた床もなじんで鳴らなくなったりするんです。

それらのことを、このお客さまの家づくりで体験させてもらいました。普通であれば怒られて、縁を切られて終わりになってもおかしくないですよ。3年も付き合ってくれたお客さまがいたからこそ、気づけたことなので、本当に感謝しています。それが僕たちの断熱気密のスタート地点、すべてのきっかけになりました。

快適な「ゾーン」を守りつつ、自由な空間を楽しむ

夏見:僕は、「家の中がもっと自由な空間になったらいいな」と思っています。家は、限られた家族が住むための空間。その限られた空間の中で、家族全員の趣味趣向を考慮しながら、複合的なことを考えて家をつくるのは楽しいことなのですが、同時に凄く難しいことでもあります。

例えばですが、手芸が大好きなお母さんの気持ちを、バイク好きの僕がきちんと理解するのはとても難しいんです。

なので「家はもっと自由でいい」僕はそう感じます。先ほど話した「ゾーン」の話にも通じるのですが、お客さま家族全員が快適だと感じるゾーンを守り、「絶対に嫌だ」というゾーンには入らないようにする。家族みんなが「いいな」と感じる「快感ゾーン」を、できる限り幅を持たせながらつくっていく。

そしてその「快感ゾーン」のなかで、お客さま家族が好きな色味やデザインを取り入れたり、それぞれの趣味を楽しめるような内装にしていく。そういう風に、自由に空間を楽しんでほしいのです。僕たちがつくる「快感ゾーン」に、お客さま家族の趣味趣向が収まる家が理想ですね。

 

―「ちょうどいいなぁ」と感じるゾーンの中で快適に暮らす。そのために、家を建ててもらう側の私たちにも、考えるべきこと・考えすぎなくてもいいこと、があるそうだ。

夏見:お客様には、まず「暮らしのイメージ」を持っていただきたいと思っています。家で手芸をしたい、キャンプをしたい、読書を楽しみたい、寝っ転がりたいなど、性能面に惑わされず「こういう生活がしたい」ということを考えていただきたいんです。

僕たちは、そんなお客さまの理想の暮らしに合わせて、ちょうどいい環境の「ゾーン」をつくっていきます。

今はたくさんの住宅に関する情報があるので、お客さまの中には「この性能を重視してほしい」と言って来られる方もいらっしゃいます。ですが、ある部分だけのバランスだけを重視しすぎると、全体としての快感ゾーンを外してしまう場合があるんです。

例えば、家が暗すぎる、明るすぎる、寒すぎる、暑すぎるといったことになってしまいます。そうならないためにも、お客さまにはまず「暮らし」について考えていただきたい。そこから快適に暮らせるゾーンを見つけ、つくっていくのは僕たちプロの仕事です。

さまざまな情報に惑わされるのではなく、自分たちがどう暮らしていきたいのかということを大切にされてくださいね。

(2021/06/14 取材:平井玲奈 写真:家づくり百貨)