在宅ワークの普及で「書斎をつくりたい」という要望が急増しています。しかしいざ設計の段階になると、寝室との位置関係や夏場の暑さ問題など、見落としがちな落とし穴が数多く存在します。今回の家百講座では、クオホームの本田さんら現場のつくり手が、書斎づくりで実際に直面するリアルな問題と解決策を語ってくれました。
- 寝室隣接の書斎は人の声の遮音が難しく、物理的な距離が最善策
- 書斎のPC熱問題はエアコン選定と空気の流れで対処する
- 夫婦ともにテレワークなら2箇所に分ける、または階を分ける設計が有効
- 趣味の用途(模型・車・サーフィンなど)によって書斎のつくり方は全く変わる
- 設計者には「書斎が欲しい」ではなく「そこで何をしたいか」を伝えることが最重要
目次
1. 寝室隣接の書斎はどこが問題なのか

1-1. 「寝室の横に書斎」という提案の実態
視聴者から寄せられた質問がこの講義のきっかけです。「設計士から寝室と繋がる書斎を提案されたが、騒音が気になる。どう思うか」という内容でした。
本田さんはまず、家庭環境と使用頻度を確認することが出発点だと語っています。書斎でうるさくなるのは主にZoomなどのオンライン会議であり、問題になるのは「夜、家族が寝ている時間帯に仕事をするかどうか」という点に絞られます。ほぼフルリモートで食後も仕事を続けるような環境であれば、話はまったく変わります。
本田さんは「そういう環境なら、もう特別に書斎をつくってあげたい」と言います。毎日寝ている時間帯に使うなら寝室にも悪影響が出るため、寝室の「ついでの書斎」という発想は成立しにくいという判断です。
1-2. ドアの有無でどこまで変わるか
寝室と書斎を繋げるにしても、ドアの有無で状況は大きく異なります。本田さんは「寝室のドアを開けて入り、そこからさらにもう一枚ドアを開けて書斎に入る構成ならまだ許容できる」としています。一方、寝室から直接くぐり抜けて書斎になる間取りは「空間として成立しない」と断言しています。
ただし、ドアで区切ったとしても根本的な課題は残ります。
「人の声を塞ぎたいとなると、人の声が一番響く。あれを遮音するのはなかなか大変なんです。場所を物理的に離すのが一番いい話だと思います。」
遮音性能を高める工事より、そもそも距離を取る間取りの方が合理的だというのが、現場からの率直な結論です。
2. テレワーク書斎の間取りパターン

2-1. 夫婦ともにテレワークの場合
夫婦ふたりがそれぞれテレワークをするケースでは、本田さんは複数のアプローチを紹介しています。
最もよく採用されるのが、1階と2階に分けるという方法です。テレワーク専用にしてしまうと他の用途に使えず非効率なため、子供がいる時間帯は勉強スペースとして活用できるよう複合的な用途を持たせ、2箇所に分散させる設計が現実的だと語っています。
より完全な分離が必要な場合は、お互いの部屋を完全に離して2つ設けたケースもあるとのことです。一方、もう少し緩い使い方をしている夫婦では、1つは完全な個室、もう1つは寝室脇に設けて、会議がある時だけ個室を使い譲り合うという運用をしているケースも紹介されました。
2-2. 深夜に海外と会議をするケースの極端な例
本田さんが紹介した最も印象的な事例が、海外とのやり取りで真夜中にも会議が発生するという方への対応です。
「その方は玄関ドアの先、靴を履いて行くところに書斎をつくりました。要は真夜中に打ち合わせもあるということ。ニーズによるんです。」
家族の生活空間から最大限に切り離すことで問題を解決したというこの事例は、「書斎の場所は使い方のニーズで決まる」ということを端的に示しています。
3. 書斎の暑さ・熱問題と空調設計

3-1. PCの発熱は想定以上
書斎は一般的に4〜5畳程度の小さな空間です。本田さんはここでもうひとつ重要な問題を指摘しています。それがパソコンの発熱による暑さ問題です。
ハイエンドのデスクトップPCは300〜500Wの熱量を発します。モニターを複数台使っている場合、その空間だけで1kW近くの熱が発生することもあると本田さんは説明しています。「サーバールームみたいなもの」という表現が使われるほどで、通常の空調計算では対応しきれない場合があります。
3-2. 空気を「動かす」ことが基本対策
小屋裏に書斎を設けるケースなど、特に熱がこもりやすい場所では、本田さんは「いかに空気を回してあげるか」を意識した設計をすると語っています。専用の弱い換気扇を設けて空気を抜く方法や、冷気が落ちてくる仕組みをつくることが多いとのことです。
全館空調のダクト式システムを採用している場合は、書斎に入れる空気量を別途計算して対応することになります。本田さんは「ちゃんと計算しないとまずい」と明言しています。
3-3. エアコンの選定問題
書斎向けには小さな空間に対応した小型エアコンが理想ですが、現実はなかなか難しい面があります。
「ドアを閉めて音も遮断したいとなったら、もうエアコンをつけるしかない。でもエアコンをつけたら今度は寒すぎになる。1kWとか800Wの冷房エアコンがあったらいいんだけど。」
2.2kW以上の通常サイズのエアコンをつけると、小さな書斎では冷えすぎてしまうというジレンマがあります。最近は小型のエアコンユニットや、換気と小型エコのセットになった機器も登場しているとのことですが、本田さんは「特殊すぎて壊れた時が面倒」として、結局は2.2kWのシンプルなエアコンを薦める場面もあると話していました。
4. 趣味の書斎・こもり部屋の設計

4-1. 「何をしたいか」で設計は180度変わる
本田さんは、書斎には仕事用だけでなく趣味のこもり部屋として欲しいというニーズも多いと述べています。そしてその用途によって、設計のアプローチはまったく異なると強調しています。
ゲーミングPCで遊ぶ、模型をつくる、サーフィンのボードをメンテナンスするなど、それぞれに必要な空間や設備が全く違います。
4-2. 「狭い」ことが価値になるケース
本田さんが興味深い観点を披露しています。男性が書斎を求めるとき、広い空間よりドラえもんの押し入れのような狭い空間を求めることが多いというものです。
「ゲーミングPCでこもりたいなら、それをより演出してあげる。横も縦も囲まれた感じが男性には喜ばれる」と語っています。実際に3畳・高さ1800mm程度の小部屋に畳を敷き、床を1段下げ、入り口を1200mmに抑えた「潜り込む書斎」をつくった事例も紹介されました。子供の遊び場にもなる多目的な空間として機能しているとのことです。
4-3. 模型・スプレー塗装への対応
模型が趣味の方のケースでは、スプレー塗装という特殊な問題があります。本田さんは「コンクリートの中で最悪の相性」だと語りつつも、その書斎だけ気密をしっかり取り、手元に空気が入って手元から抜けるようにダクトを設計したと紹介しています。使わなくなった後に断熱の列を変えられる準備も施しておいたとのことです。
4-4. サーフィン・車など大型趣味の場合
サーフボードのメンテナンスをしたい方には、狭い書斎ではなく玄関土間を広く取り、その片隅に座ってPCを使ったり補修したりするスペースを設けたという事例も語られました。本田さんは「玄関土間が書斎の一部」という発想で、重要なのは「玄関が寒くないこと」だと付け加えています。
5. 書斎づくりで最も重要なこと

5-1. 「書斎が欲しい」だけでは不十分
本田さんはこの講義を通じて、一貫してひとつのことを強調しています。
「書斎が欲しいとだけ言って、あとは嫁に任せ、みたいな旦那さんは多い。でも、そこで何をしたいかを伝えないと、要望が満たされないものになる可能性がある。かっこよく『書斎』と言っただけでは作り方も変わってくる。」
設計者は「何がしたいか」を教えてもらえれば、それに合った作り方を探すことができます。情報を出し惜しみせず、具体的にやりたいことを伝えることが、後悔しない書斎づくりの出発点です。
5-2. 子供が大きくなった時の「逃げ場」という視点
書斎の意義について、もうひとつの観点も語られています。子供が小さいうちはリビングで一緒に過ごせるが、ある程度大きくなると子供がテレビやゲームでリビングを占拠し始める。そのときお父さんのセカンドリビングとして書斎が機能するという話です。仕事や趣味だけでなく、家の中の「逃げ場」として書斎を捉えることも、設計段階で意識しておく価値があります。
6. よくある質問
Q. 寝室と繋がった書斎は絶対に避けるべきですか?
フルリモートで夜間も仕事をするような環境なら、物理的に離した場所に設けることを本田さんは勧めています。使用頻度が低く、夜に会議をする機会がほとんどないのであれば、寝室との間にドアを2枚介した構成なら許容できると語っています。
Q. 書斎が暑くなるのはなぜですか?
ハイエンドのPCは300〜500Wの熱量を発し、複数モニターと合わせると書斎だけで1kW近い熱が出ることがあります。狭い空間にその熱源があるため、通常のエアコンでは「冷えすぎ」か「効かない」どちらかになりやすいです。換気や空気の流れを設計段階で計画することが必要だと本田さんは説明しています。
Q. 夫婦ふたりともテレワークの場合、書斎はどう設計すればいいですか?
本田さんは、1階と2階に分けるか、完全な個室を2箇所設ける方法を紹介しています。また、1つは完全個室、もう1つは寝室脇に設けて、会議のある時だけ個室を使い譲り合うという緩やかな運用も機能すると語っています。
Q. 書斎に模型・スプレー塗装のスペースをつくることはできますか?
可能ですが、特殊な換気設計が必要です。本田さんは「コンクリートの中で最悪の相性」としつつも、その部屋だけ気密をしっかり確保し、手元に空気が入って手元から抜けるようにダクトを設けた事例を紹介しています。使わなくなった後のリノベーションも見越した設計が重要だと語っています。
Q. 書斎の広さはどのくらいが適切ですか?
動画では「マックス4〜5畳くらい」という言及があります。男性の場合は広い空間より狭くこもれる空間が好まれることが多く、本田さんは3畳・高さ1800mm程度の「潜り込む書斎」を喜ばれた事例を紹介しています。何をするかによって適切なサイズは変わるため、用途を明確にして設計者に伝えることが前提になります。
書斎はひとことで「書斎が欲しい」と言っても、その中身は人によってまったく異なります。騒音問題・熱問題・用途の違い、それぞれに現場ならではの解決策がある。つくり手の本音に触れることで、設計者との打ち合わせがより具体的になるはずです。より詳しく知りたい方はぜひ動画をご覧ください。
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