吹き抜けへの憧れを持ちながら、「やっぱり寒いのでは?」「光熱費がかさむのでは?」と踏み切れない方は多いでしょう。この講義では、実際に吹き抜けのある住宅を手がけてきたつくり手たちが、吹き抜けを「ただのデザイン要素」ではなく「空調装置」として捉える発想と、失敗しない空間比率・設計の考え方を本音で語っています。
- 吹き抜けは空調装置・ダクトスペースとして設計する発想が重要
- 寒さの原因は「ただ開けただけ」の目的なき吹き抜け
- 空間比率(天井高・開口幅のバランス)が居心地を左右する
- メンテナンスできる高さ設定が長期運用の鍵
- 吹き抜けは家族のコミュニケーションツールにもなる
目次
1. 「吹き抜けは寒い」は何時代の話?

「吹き抜けって寒くないですか?」という質問は、今もつくり手のもとに絶えず届きます。本田さんは「未だに寒いと思いますよ、多分」と認めつつも、こう続けます。「某住宅会社さんが『吹き抜けはやめた方がいい』という動画を出しているのも事実。理由として一番多いのはやはり寒さ、そして光熱費がかかるという点でしょう」。
ただし、それは「ただ空間を開けただけ」の吹き抜けに起きる話です。動画の撮影現場は吹き抜けのあるリビングでしたが、つくり手たちが口をそろえるのは「そういう不具合が出るのは、目的のない吹き抜けだから」という一点です。
2. 吹き抜けを「空調装置」として捉え直す

2-1. 暖かい空気を2階へ届けるダクトスペース
本田さんはこう断言しています。
「寒いという理由で吹き抜けをつけないんじゃなくて、僕らは空調装置として——暖かい空気がここから出てきて上に上がっていって2階をあっためるための、ダクトスペースの意味合いがあって吹き抜けをつけている。全くここからさーっと冷たい空気が落ちてくるものじゃない、そうならないように作っているので。」
吹き抜けを空気の通り道として設計に組み込むことが前提です。1階で暖められた空気が自然に上昇し、吹き抜けを経由して2階へ循環する流れを意図するかどうかで、寒さの体感はまったく変わります。
2-2. 採光コントロールの手段としての高窓
吹き抜けには採光設計の道具という側面もあります。道路や隣家からの視線が気になるリビングでは、南面の窓を必要以上に大きくしなくて済みます。吹き抜け上部に高窓(ハイサイドライト)を設けて光を落とせば、カーテンを閉め切ることなく自然光を取り込めるからです。「明るさは上から取る」という考え方が、吹き抜けを設ける明確な理由の一つになっています。
3. 空間比率が吹き抜けの成否を決める

3-1. 天井高と開口幅のバランス
つくり手たちが繰り返し口にしていたのが「比率」という言葉です。単純に天井を高くするだけでは、「井戸の底にいるような不安感」を生むと本田さんは言います。
「開口の大きさに対して天井の高さには比率があります。ただただ天井が高いだけだと、井戸の底にいるみたいな感覚になる。」
吹き抜けの横幅(開口面積)に見合った天井高を設定してはじめて、開放感と居心地が両立します。
3-2. 周囲の天井をあえて低くする効果
「ソファーに座るリビングで天井が高すぎると、ぽつんと置かれたような落ち着かなさがある」と本田さんは語っています。そのためソファー周りだけ天井を低く仕上げ、そこからダイニングへ向けてポンと抜けるという手法を多用しているそうです。
このメリハリは、動画の撮影現場でも体感できます。キッチンや廊下の天井高を2,150mmと低めに抑えることで、吹き抜け部分の高さがより際立って見える。「実はここ2,150mmしかないんですけど気になりますか?と聞いたら、気にならないですとおっしゃっていただける」と本田さんは言います。
4. 吹き抜けをどこに配置するか

4-1. リビングかダイニングか
吹き抜けをリビングに設けるかダイニングに設けるかは、つくり手によって考え方が異なります。
田さんは「7〜8割はダイニングかな」と語っています。ソファーに座ると目線が下がるリビングでは吹き抜けの効果が薄れやすく、立って活動するダイニングの上に空間を抜く方が空気の動きや開放感を生かしやすいというのがその理由です。小林さんは「半々くらい」としながらも、「最近はキッチン・ダイニングで過ごす時間が増えてきた。長くいる空間だからこそ、そこに吹き抜けを配置する理由が増えてきた」と言います。本田さんは「敷地とお客さんの暮らし方で書いていく」と前置きした上で、今回の物件はリビングに設けたと説明しています。
4-2. 家の中心に置くコミュニケーション効果
本田さんは吹き抜けを家族のコミュニケーションツールとして位置づけています。
「1階のキッチンから2階の子供部屋に繋がっているので、2階で作業している人にも声が届く。『ちょっと待ってて』とか『今何時?』とか、家の中全体で家族の会話ができる。だから家の真ん中につけることが多い。」
空調装置としての機能と、コミュニケーションの拠点としての機能。この二つを兼ねさせることが、つくり手たちの吹き抜け設計の根底にある発想です。
5. メンテナンスできる高さ設計

吹き抜けの失敗例として、本田さんはテレビ取材で見かけた「吹き抜け上部にエアコンを設置した住宅」を挙げています。「メンテナンスどうするの?」という話です。
つくり手たちが徹底しているのは、「脚立に乗れば届く高さ」に吹き抜けの上端を収めることです。「発尺の脚立に乗って一番上に立つと届く高さまでにしておく」と本田さんは語っており、窓の清掃や照明の交換を自分でできる設計を標準としています。
階段上部が吹き抜けになっているケースについては「後で脚が悪くなったり、高いところに上がれない人には大変になる」とも指摘しています。手が届かない場所を作らないことが、長く気持ちよく住み続けるための条件です。
6. 吹き抜けの空間を「結界」として整える

本田さんは、吹き抜けの角には柱を必ず入れると語っています。構造的な必要性はもちろんですが、「吹き抜けの空間を柱によって物理的にというより精神的な空間の仕切りとして使いたい。ここはこういう場だよという結界にしたい」という設計意図があるそうです。
また、吹き抜けの切れ目(床と吹き抜けの境界線)がダイニングテーブルの中央を横切るような配置は最悪だと断言しています。空間の美しさと構造計画の整合性、両面から吹き抜けの始まりと終わりの位置は慎重に決める必要があります。
7. よくある質問

Q. 吹き抜けは本当に寒くなりますか?
「目的なく空間をただ開けただけの吹き抜けは寒くなる」というのが、つくり手たちの一致した見解です。暖かい空気を2階へ届けるための空気の通り道、つまり空調装置として設計に組み込んだ吹き抜けであれば、寒さは解消できます。「そうならないように作っている」というのが本田さんの言葉です。
Q. 吹き抜けはリビングとダイニング、どちらに設けるべきですか?
つくり手によって考え方が異なります。田さんはダイニング派(7〜8割)、小林さんは半々、本田さんは「敷地とお客さんの暮らし方による」というスタンスです。ソファーに座ると目線が下がるリビングより、立って活動するダイニング上部の方が空気の動きを生かしやすい、という見方が多数でした。
Q. 吹き抜けの天井は高ければ高いほど良いですか?
「開口の大きさに対して天井の高さには比率がある」と本田さんは語っています。横幅に対して天井が高すぎると「井戸の底にいるような不安感」が生まれます。周囲の天井をあえて低く抑えてメリハリをつけることで、吹き抜けの高さがより際立って感じられます。
Q. 吹き抜けはメンテナンスが大変ではないですか?
「脚立に乗れば届く高さ」に収めることが、つくり手たちの共通ルールです。手が届かない高さのまま設計すると、照明交換や窓清掃が困難になります。テレビ取材で見かけた「吹き抜け上部のエアコン」は、その典型的な失敗例として動画でも紹介されています。
Q. 吹き抜けがあっても天井が低く感じることはありますか?
本田さんが面白い実例を語っています。周囲の天井高を2,150mmに抑えながら吹き抜けとのメリハリを利かせた設計では、見学会でお客さんが「天井が低いとは感じない」と口をそろえるそうです。低いエリアから吹き抜けの高い空間を見上げる「目線の誘導」が、体感の天井高を引き上げています。
吹き抜けの設計には、空調・採光・比率・メンテナンスと絡み合う要素が多くあります。より詳しく知りたい方はぜひ動画をご覧ください。実際の吹き抜け空間を前にしたつくり手たちの言葉が、設計の判断軸をより具体的にしてくれます。
この講義の出演者
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